27日、韓国ソウル市内でク・ハラさんの葬儀が行われた。前日まで設けられていた弔問用の祭壇には日韓のファンたちが長い列を作り、「日本でも活動するってことだったのにこんな…」「複雑な気持ちでとても悲しいです。こんな姿見せちゃいけないのに」と涙に声を詰まらせた。
元KARAのメンバーで紅白歌合戦にも出場。日本でも人気が高かったハラさん。今年、日本でのソロ活動を本格化し、新曲を発表。19日まで日本でコンサートツアーを行っていた。その後、22日に韓国に帰国。23日、Instagramに投稿された写真には、一言「おやすみ」とだけ。これが最後の投稿となった。そして翌日、遺体となって発見されたハラさんの傍らには、人生を悲観するような内容のメモが残されており、警察は事件性がないと判断しているという。
昨年から元交際相手とのリベンジポルノ、暴力トラブル訴訟の渦中にいたハラさんに対しては、「彼氏に暴力ふるったのに、なぜ被害者面?」「リベンジポルノの映像、どこにアップされてる?」などの中傷が相次ぎ、今年5月には自殺未遂を図り病院に搬送された。そして10月には、親友でアイドルグループ「f(x)」のメンバー、ソルリさんが自殺。この時にも、哀悼の言葉をSNSに投稿したところ、「死んだ人を使ってインスタで宣伝か?」、さらに「二重手術またやってるの?」と整形手術に関する中傷が次々とネットに書き込まれていった。
ハラさんの死の背景に、こうした悪質なネット上の書き込みによって芸能人などを死に追い込む韓国用語“指殺人”があったと指摘する声もある。ソルリさんもまた、テレビ番組で、ネット上での中傷を告白していたという。
元歌手で、KARAの日本語通訳も経験しているNICE73は「とても心優しく、心から日本を愛していたタンポポみたいな方。世界中のファンが悲しかったように、私もすごく悲しかった」と心境を明かした上で、韓国の芸能人とSNSの問題について次のように話す。
「韓国ではネットがとても早く発達したので、とても身近な存在。声に出すような感覚で、すぐネット書き込む風潮がある。日本では“クソリプ”という言い方があるが、韓国でも“悪プル”という、掲示板やSNSに書き込まれる悪質な中傷コメントを指す言葉があり、インスタやペン(ファン)カフェというネット上のコミュニティにもよく書き込まれている。どうしても、芸能人やお金持ち、著名人のような人の悪い噂に人々が集まるが、韓国の芸能人は何かコメントを出すにも慎重にならざるを得ず、自分ではどうすることもできないうちに、“仕事も入ってこなくなる。どうしよう”となってしまうただ、ポータルサイトを見ていると、今は“皆変わらないといけないんだ”という書き込みもある。これ以上、若くて才能のある人たちをなくしてはいけない。それには自分たちの心を変えていくしかないか、という書き込みがたくさんあった。それを見て、こういう悲しいことがあった時にそう言うふうに思う人がいることは希望だ」。
この問題について、東海大学教授の金慶珠氏はさらに詳しく説明する。
「韓国では90年代終わりの通貨危機後、ITを成長産業として打ち出していった。その結果、日本よりも日常生活の中でネットが利用されるようになった。政治の分野でも、2002年の大統領選挙でネットが積極的に利用され、それまで政治に興味のなかった若者が一気に入ってきて、意見表明しながら大統領候補を支持していった。そのあたりからネットでの意見も一つの世論とみなされるようになり、ネットとシチズンを合わせた“ネチズン”という言葉もよく使われるようになった。そもそも“韓流”という言葉は、韓国にとどまらず日本や中国、そして世界中で、という意味があり、芸能事務所は日本以上にネットを活用し、国内外のファンと直接交流させながら開拓していく。これに成功したのが、BTSのようなアイドルグループだ」。
ただ、芸能界においては、その“急成長”の副作用が芸能人本人に激しく向けられてしまうという。韓国の大手ポータルサイトDaumは10月、芸能ニュースのコメント欄を廃止。また、NAVERは今月、AIが悪質なコメントを自動で削除する機能をニュース記事全体に適用させるという試みを始めているという。また、ソルリさんの名を冠した「ソルリ法」の制定を求める声が上がっている。これは「コメント投稿の際にID全体とIPアドレスを公開する」「当事者以外の第三者も悪プルの削除要求を可能にする」というもので、悪プルへの処罰強化が韓国大統領府に請願され、現在2万5000人の賛同が得られているという。
「短期間に急激に成長を遂げた分、歪みも生じてしまう。急激な経済成長によって格差社会が固定化されてしまったと言われるように、IT強国とされる一方、コミュニケーションの規制や文化的な成熟度としては追いついていない部分がある。特に従順でかわいくて清楚というイメージからはみ出てしまった女性アイドルに対しては厳しいバッシングがある。韓国ではほぼ全てのニュースがNAVERで読まれ、コメントも書き込まれる。そのほとんどは悪プルだ。ソルリさんはノーブラ運動など、今までとは違うイメージで売っていただけに攻撃も激しかった。ハラさんの場合も、元彼とのリベンジポルノを巡る裁判が報じられて以降、一気に攻撃が増えていった。もちろん芸能事務所側もネット上での名誉毀損などに対しては積極的に法的措置を取ってもいるが、ハラさんの場合は個人事務所なので、そこに労力を割くのは大変だったはずだ。そして忘れてはならないのは、2人は誹謗中傷をする人以上にファンもいっぱいいたということ。少数の攻撃が多数の善良な市民を隠してしまう怖さだ。 2007年に一度“インターネット実名制”が導入されたが、5年後に憲法裁判所が表現の自由の観点から違憲の判断を下してしまった」。
また、2017年、人気絶頂の時に自殺した「SHINee」のジョンヒョンさんもうつ病だったと報じられたほか、2009年、女優のチャン・ジャヨンさんが自殺した背景には性接待の強要があったとされ、警察も捜査した。韓国芸能コメンテーターのヒョンギ氏は韓国芸能界の特徴について「間違うとSNSで痛烈なバッシングを受け“聖人君子”が求められるし、世界進出のための歌・ダンス・勉学も必要だ。また、アイドルの契約期間は7年。事務所を途中で辞めれば、育成費の2倍程度の違約金を要求される。育成費は最低5000万円と言われていて、つまり1億円を要求されるということだ」と説明する。
NICE73は「皆が練習生期間を経て、熾烈な争いのなかでアイドルとしてデビューしていくので、仲間内であっても弱音を吐きづらい。やはり“自分たちは我慢するのが職業でもある”と思いながらやっている。最近では大きな事務所の中に心のケアをしてくれるところもあるが、会社の人にはなかなか相談しづらい。デビューまでには踊りや皮膚の管理、“芸能人だからこういう洋服を着ないとだめだ”ということで様々な衣装を着させられるので、借金も背負ってしまう」と指摘。
金氏は「韓国のエンターテインメント産業にはYG、JYP、SMという3つの大手に加え、CJという企業が入ってきているが、それ以外はほとんど中小零細だ。そういうところではコンプライアンスやサポートが足りないと言われている。そしてトレーニー制度だ。10歳そこそこの優れた子をスカウトし、少数精鋭で徹底的に特訓する。もちろん成功して大スターになる子もいるが、やはりそれはほんの一握り。特に男の子は20歳で軍隊に行って、帰ってくるとアイドル扱いされず、行き詰まりを感じてしまう事例もある」と話していた。
芸能人にまつわるトラブルや問題は、日本でも例外ではない。悲劇を繰り返さないよう、全ての人が考えるべきだろう。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:元KARA・ハラさんの死から韓国アイドル急成長の裏にあるSNS苦を考える
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