「“懲役上等”で生きてきた男でございますから屁でもありませんが、厚労省が腰砕けになったのはとても残念」イベント降板問題に村西とおる監督
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 来月1日の「世界エイズデー」を前に、厚生労働省が28日、『RED RIBBON LIVE 2019』を開催。蒼井そら、押尾コータロー、小林麻耶しみけん、TERU、ふなっしー、丸山桂里奈ら各界の著名人が登壇、ラライブやトークを通じてHIVの正しい知識や検査の重要性、差別や偏見をなくそうと呼びかけた。しかし、そこに登壇予定だったAV監督の村西とおる氏の姿はなかった。2日前、ゲスト一覧の中から、村西監督の名前が消えていたのだ。

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 番組が厚生労働省エイズ対策推進室に取材したところ、当初「AV業界で活躍され、知名度と発信力があり幅広い層への効果が期待できると考えた」として登壇を依頼していたが、「様々な意見がツイッター上で多数あり、出演すると当初の目的と違うイベントになりかねないと判断し、村西さんと相談して決めた」との回答があった。電話による問い合わせは数件だったというが、同省の公式Twitterアカウントには「女性差別の発言があり、性病の面でも不適切」「話題性だけで注目を集めようとしている」といったリプライが寄せられていた。

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 同日夜のAbemaTV『AbemaPrime』に生出演した村西監督は「26日に厚労省から3人ほどの職員が来て丁寧に事情を述べられ、“今回は一つご遠慮いただきたい”ということでございました。私の方から"出演したい"とお願いしたお話でもございませんので、そういうことでございましたら構いませんよと、快くご辞退申し上げた次第でございます。私としてはこういう仕事をしていますけれど、世のため人のためになることであれば、地球の裏側まで行ってでも、どんなことでもやろうという気持ちがあったので、今回、こういうことでの突然のキャンセルで、とても残念でした」と話す。

 その上で、「ただ、どういうことで私が出演できなくなったのかが明確じゃない。過去に女性差別の発言をしたということだが、私がいつ、どの場で、どういう形で女性に対する差別的な発言をしたのか。その具体的な根拠を明示していただきたい。それが明確でないまま、何人かのクレーマーに対して腰砕けになってしまった。とても残念だ。私は“懲役上等”で生きてきた男でございますから屁でもありませんが、こういうスタンスでは一般の方だったら自分のイメージが傷を負いますよ。基本的には、ある種のクレーマーというか、自己承認欲求に駆られた人たちはわずかだということ。裏側を訪ねていくと、5、6人のクレーマーが騒いでいて、私が出演しないことになったら“やった、やった”と大騒ぎしていることが分かる。ネットの意見の8割くらいは私の存在を認め、なぜ厚労省はキャンセルしたのか、と批判的だ。そういうことを勉強しないで、“そういう声があったから”と臆病になり、小役人根性を出してしまう。厚労省は誰がどういう根拠のもとにこういうクレームを発信したのか、それを検証してジャッジしないといけないし、そういうタフさを持たないといけない」と厚労省の対応を批判した。

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 背景にあるとみられるのは、村西監督の「AV強要問題でフェミニズム運動の先をきっている女性弁護士のどちらさまも、男性には縁のなさそうな人たちに見える」等の、女性蔑視ともとれるツイートだ。この点についても、村西監督は「フェミニストの人たちは、そういう名前を借りて、AVという職業に対する逆差別をしている。性をテーマにして映像化するのは、そんなに人でなしの仕事ですか?反社会的な仕事ですか?と訴えたい。皆さんはどこから産まれてきたんですか?性というものはそんなに邪悪なものですか?ということを逆に問いたい」と反論した。

 ふかわりょうは「私の知人がある番組で炎上し、局のトップが謝罪をしてしまった。炎上を止めようと思った優しさかもしれないが、当初は賛否両論ある話だったのが、その段階で局が“否”の方に票を入れた格好になってしまい、私は腑に落ちなかった。今回も、村西監督に出演して欲しかった理由、キャンセルの理由を本人はもちろん、一般の人に明示すべきだ。そうしなければ、“差別や偏見をなくそう”がテーマのイベントだったにもかかわらず、村西監督が差別や偏見の象徴になり、“出してはいけないキャラクター”という印象になってしまう」とコメント。

 フリーアナウンサーの柴田阿弥は「指摘されているツイートは良くないと思うが、それと村西さんがHIVを啓発することは分けないといけないと思う。若い人に見ても らいたいイベントを見てもらわないといけないにも関わらず、それを数件の苦情でやめてしまうことが当たり前になってしまうと、女性問題の解決が進まなくなるのではないか。やはり正義という盾を持てば、何を言ってもいいという雰囲気があるが、それは結構危ないと思う。どんな戦争も、結局は正義の名の下に行われてきた。だから“正義”を聞きすぎる世の中も怖いが、一方でマイノリティの人たちの声が無視され続けてきたという歴史もある。バランスがとても難しい」と話した。

■「厚生労働省はなかったことにせず、検証・議論の場を」

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 厚生労働省では今週、終末期にどのような医療やケアを望むのか、家族や医師と事前に話しておくことの大切さを呼びかける「人生会議」のPRポスターも炎上した。よしもと新喜劇の小籔千豊の写真に、“まてまてまて 俺の人生ここで終わり?大事なこと何にも伝えてなかったわ(中略)こうなる前にみんな「人生会議」しとこ”というコピーが乗ったものだが、「大切なことではあるが、死を連想させる」「面白おかしく表現されていて、患者や家族への配慮に欠ける」などの批判が数件寄せられ、自治体へのポスター発送が中止となっている。

 番組には「多様性の時代なので反対意見があってもよくないですか」「文句つけたもの勝ちの世の中になっていないですか」「ネットって自由じゃないの?そもそもその意見はマスですか?」「企業やメディアがクレームを気にしすぎだ」「メディアが勝手に騒ぎすぎじゃない」というコメントも寄せられた。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「インターネットのスラングに“お気持ち問題”というものがある。“この表現を許してはいけない。規制せよ”という意見に対して、そのロジックを掘り下げようとすると、“それは私の気持ちだ”という問題だ。本来は、表現の自由を乗り越えてしまったものや、どうしても許せないものだけ規制していくというのが一般的な考え方だ。今の日本は、ロジックではなく“お気持ち”によって表現側が圧迫されてしまう流れになっている。多様性を大事にし、話し合いによって解決していくはずのリベラルな世界観、リベラリズムが変質している」と指摘する。

 「常識的な人、良心的な人の声は聞こえにくく、結局は両極端の声ばかりが浮かび上がってしまうので、世の中全体がおかしくなったように見える。これはある意味でインターネットという技術の限界だ。常識的な人が恐れずに声をあげたものを拾い上げる仕組みを作り、それを厚労省が聞く、ということにならなければダメだ」。

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 拓殖大学非常勤講師の塚越健司氏は「少数者の声は大事だと思うので、それ自体は尊重されていいし、様々な議論もあっていい。ただ、聞くべき意見もあれば、ノイズのようなものもたくさんある。ネットでは“正義マン”と呼ばれているが、ずるいと感じたことについて声を上げる人が目立つようになってきたのは事実だ。一方、マジョリティは喋らないだけで、それなりに穏健なところもある。そこを精査しないまま、“いっぱい来たからまずいよね”と“炎上したからやめておこう”と判断してしまう。今回の厚労省の対応もそうだ。何の議論もなく、何が問題だったのかがわからないまま、村西さんはダメージを負い、厚労省の対応に賛成した人、反対した人が分極してしまうことになる」と話す。

 「炎上した時には、つい炎上したこと自体をなかったものにしようとしてしまう。例えば新潮45が休刊した時も、問題を検証する特集をすればいいという意見もあったが、結局実現しなかった。不当な炎上に対しては、企業がちゃんと答えることで鎮まり、むしろ評価が高まることもある。今回も何が問題だったのか、そして性の問題、村西さんの問題を議論できる場所や記事を厚生労働省が出すことが重要ではないか」。

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 プロデューサーの若新雄純氏は「完璧な表現をするのは難しく、意図を100%伝えるのも困難だということをクリエイターは知っている。だからこそ、彼らは“すぐに取り下げろ”とは言わない。それを主張するのは、ただの評論家だ。インターネットができて、誰もが発信者になれる、表現者になれると盛り上がったが、これは誰もがそういう評論家になるということでもあった。また、役所は減点評価なので、チャレンジして加点した人ではなく、とにかく減点が少なくなるように回避し続けた人がレースに勝ち残る。『人生会議』のポスター問題もそうだが、今回も偉い人が減点を未然に防いだということだと思う。そして、日本ではこういう活動に税金が使われることが多いので、やはり皆が納得しなければダメだというムードがある。「あいちトリエンナーレ」の問題もそうで、欧米では啓発活動やNPOの活動については、欧米では民間のスポンサーがあるからこそ強く、チャレンジを生めると思う。そういう背景もあると思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:「すぐに腰砕け」クレームで出演撤回の村西とおる監督が緊急出演

「すぐに腰砕け」クレームで出演撤回の村西とおる監督が緊急出演
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