医師の中村哲さんが4日、アフガニスタン東部のジャララバード近郊で、車で移動中に何者かに銃撃され死亡した。
NGO「ペシャワール会」の現地代表として、農業用水路の建設など長年アフガニスタンの復興に携わってきた中村さん。突然の訃報にネット上では、中村さんの名前のハッシュタグとともに、現地の人々などから感謝と謝罪を綴る追悼コメントが相次いだ。
異国の地で、なぜこれほどまで信頼され必要とされたのか。それは、中村さんが語った言葉に表れていた。ある講演で、何十年も活動を続けられる原動力について聞かれた中村さんは次のように答えている。
「早く作業から引き揚げたいと思ったことは何度もあるが、ここで自分がやめると何十万人が困るという現実は非常に重たい。また、多くの人が私の仕事に対して希望を持って何十億円という寄付をしてくれている。その期待を裏切れない。なによりも現地の人たちに『みなが頑張れば、きちんと故郷で1日3回ご飯が食べられる』という約束を反故にすることになる。日本では首相までが無責任なことをいう時代だが、十数万人の命を預かるという重圧は、とても個人の思いで済まされるものではない。みなが喜ぶと嬉しいもので、それに向けて努力することが原動力だと思う」
そして、人々がアフガニスタンという国に対して抱く“とても危険な国”というイメージに対して、現地で直接人々と触れ合った中村さんは誰よりもその実情を理解していた。
「泥棒に入る人だって強盗に入る人だって、別に遊び金が欲しいわけじゃないんですね。家族を食わせるために人のものに手を出したり、米軍の傭兵になったり、あるいはタリバン派の傭兵になったりして、やむを得ずそうするけども、決して誰も望んでいない。とにかく平和に家族がみんな一緒にいて、安心して食べていけること。診療所を100個作るより用水路を1本作ったほうが、どれだけみんなの健康に役立つのかわからないと医者として思う」
しかし、そんな中村さんが直面した悲劇が2008年、ペシャワール会のメンバーとして働いていた伊藤和也さんの死だ。アフガニスタンのために尽くしたのに、なぜアフガニスタンの地で殺されなければいけないのか。そう思える出来事でも、中村さんの視線は常に前を向いていた。
「憤りと悲しみを友好と平和への意志に変え、今後も力を尽くすことを誓う」
こうした中村さんの人柄について、2008年に講演を取材したというノンフィクションライターの石戸諭氏は「中村さんはクリスチャンで、基本的な姿勢は“天命”という考え方に近いと思う。自分が生きる理由を考えた時に、アフガニスタンで医療支援をする人にたまたま出会ってしまった。その人たちのために何ができるかを考えた時に、命を守るために医者として活動するとともに、水を掘ることが非常に重要だと。アフガニスタンは“パンと水”の問題が重要だと言っていたことを思い出す」と話す。
中村さんは2005年の手記に、“平和の基礎”を書き記している。
「『人々の人権を守るために』と空爆で人々を殺す。果ては、『世界平和』のために戦争をするという。いったい何を、何から守るのか。彼らは殺すために空を飛び、我々は生きるために地面を掘る。彼らはいかめしい重装備、我々は埃だらけのシャツ一枚だ。彼らは死を恐れ、我々は与えられた生に感謝する。同じヒトでありながら、この断絶は何であろう。彼らに分からぬ幸せと喜びが、地上にはある。乾いた大地で水を得て、狂喜する者の気持ちを我々は知っている。水辺で遊ぶ子供たちの笑顔に、はちきれるような生命の躍動を読み取れるのは、我々の特権だ。そして、これらが平和の基礎である」
石戸氏は、キリスト教思想家・内村鑑三の著書のタイトルを引用して中村さんを“代表的日本人”と形容。「僕らが平和主義と聞いてもすごく抽象的で、意味のないものだと思ってしまう。平和を作るとはどういうことかを考えた時に、中村さんの活動や生き方にそれが体現されている。用水路を作って水が通るようになって、乾いた大地が緑に変わる。現地に入って人々と信頼関係を築いて、ニーズに答えて実行していった結果、セキュリティ面も安全になっていく。中村さんは人道支援や平和主義という抽象的なことを具体化して、さらに問いかけるところまでやっていた。日本で生まれ育った人が海外でどうやって尊敬を集めるのか、代表的日本人の姿」と述べる。
一方で、「中村さんだからできたという話で終わってほしくない」とし、「ここから先、彼がやってきた活動を誰が引き継いでいくのか、他にやり方がもっとあるんじゃないかというところまでつなげてほしい。このニュースが起きるまで彼を知らなかったという人たちは、功績をもう一度知るいい機会だと思う」と訴えた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
▶映像:中村さんが携わって緑を取り戻した大地
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