最高時速がおよそ時速300キロの新幹線よりも速い「リニア新幹線」(正式名称・リニア中央新幹線)が、8年後の2027年、品川~名古屋間で開業する。早ければ、その10年後にはさらに大阪まで延伸され、東京~大阪間は所要1時間ほどに大幅短縮される。
しかし、巨額の建設費をかけたリニア新幹線がもたらすものは、本当にプラスの面だけなのだろうか。小学生の頃にリニアモーターカー構想を知り、“夢の乗り物”への憧れを抱いていきたと話すのが、タレントのふかわりょうだ。「夢が現実になるのは素晴らしいこと。ただ、反対するというよりも、引っかかる点も生まれてしまった。リニアを快く迎え、気持ちよく乗るために疑問を解消して、未来に何を残すべきか、そういうところまで話し合いたい」。
そこで5日のAbemaTV『AbemaPrime』では、リニアにまつわる様々な疑問を専門家にぶつけてみた。
まず、ふかわが知りたいと話すのが「日本はどう変わるのか」という点だ。リニア新幹線の開業によって、首都圏、中京圏、近畿圏がそれぞれ1時間程度で移動できるようになるため、約6500万人の「巨大都市圏(スーパーメガリージョン)」が誕生するとされている。
また、JR東海は「東海道新幹線の経年劣化と南海トラフ巨大地震などの災害に対する備えとして、中央新幹線によって東海道新幹線が担ってきた大動脈を二重系化。中央新幹線が大阪まで開業した場合、「ひかり」タイプの列車の増発や停車駅を増やすなど、現在とは異なる新しい可能性を追求する余地が拡大する」としており、社員からも「リニア新幹線は東海道新幹線のバイパス的な役割があると思う。大規模災害時にもリニア新幹線で輸送が確保されるし、繁忙期にお客さんを分散できるというメリットがある」という声が聞かれる。
この点について、『リニア中央新幹線のすべて』の著者で鉄道アナリストの川島令三氏は「リニアは世界的にない日本の技術だ。早く実現してほしい。料金も新幹線にプラスで1000円、500円くらい高い程度なので、そのうちに東京~大阪間の67分が慣れっこになって、1日に2往復する人も出てくると思う。また、京都と横浜の人は東海道新幹線を使わざるを得ないため、従来の新幹線とリニアは両立する」と話す。
独立行政法人「経済産業研究所」理事長で経済学者の中島厚志氏も「ビジネスなど経済効果の高いものを期待する方々が乗ってくるのがリニア新幹線で、従来の新幹線は地域と地域を結んでいくという形に役割分担がされていくと思う」とした上で、「日帰りどころかちょっと近くの他の会社に行くような形で何回でも東京・大阪間を往復できることでイノベーションが生まれ、今までないサービスやビジネスが確実にできる。例えば秋葉原のような街は人口1万人の都市ではできない。やはり色んな趣味を持った方が一定数いるからこそだ。それが1000万人圏、3000万人圏となってくると、ビジネスとして成立する規模になる。それを考えれば、9兆円という総事業費もリーズナブルだ。JRは回収できると思うし、それを上回るメリットが出る」との見方を示した。
また、森屋宏参議院議員(自民党)は「高度経済成長期のように人口も経済も伸びていくというときには、交通インフラが来ることで地域にも何かしらの恩恵が来るという考え方があった。しかし、これからはそうではないと思う。やはり交通インフラはあくまでも手段に過ぎない。私の選挙区である山梨まで、品川から20分で来ることができるようになるが、その時に山梨自身がどう地域づくりをしていくのかだ。テレ朝系なので言うと、私はドラえもんの“どこでもドア”じゃなければダメだと思っている。つまり、こういう話になると、すぐに品川と同じものを甲府でも実現したいという人が出てくるが、それでは意味がない。東京一極集中、そして今よりも未来都市になる品川に対して真逆の世界を用意できるかが問われている」と指摘した。
さらに東洋経済の山田俊浩編集長は「たしかに今は経済成長期ではないので、色々と懐疑的な意見も出る。しかし、別の意味では前回のオリンピックの時に作られた新幹線は大規模なメンテナンスも必要だ。そこで路線が二重化されることの意味は大きいと思う。従来の新幹線は地域を結ぶ役割を担うという話があったが、JR東海は新幹線を活用した貨物の構想も作っている。もちろん、大本の発電をどういう形にするかという問題はあるが、二酸化炭素を排出する船やトラックから、鉄道とリニアの活用にシフトすることで非常にクリーンなことができるかもしれない」と話した。
すでに各地で工事が始まっているリニア中央新幹線。しかし予定どおりの開業を危ぶむ声もある。それが「静岡工区問題」だ。南アルプストンネル工事の際に発生する湧き水によって静岡県内の大井川の水量が減少するとして、県が工事着工を許可していないのだ。JR東海と静岡県の双方の意見が折り合わず、国も交えた協議が行われているが先行きは不透明だ。
加えて、世間からは「環境への影響は大丈夫か」「地震や災害が起きたときにどうなるの」など心配する声も聞こえてくる。山田編集長は「静岡県の川勝平太知事が工事の問題について非常に強くおっしゃっていて、週刊東洋経済の取材でも、条件闘争をやっているのではないとおっしゃっている。静岡には空港があり、その下を新幹線が通っているが、そこに駅を作ってほしいというのが静岡県の望みだ。JR東海としても、何らかのメリットを出すことによって決着をつけるというのがシナリオだと思う。つまり、静岡県の反対がなければ大丈夫という意味での、環境の問題がないということだと思う」との見方を示す。
こうした懸念について土木工学に詳しい中央大学理工学部の山田正教授は「JR東海さんは“トンネルを掘ることで最大で毎秒2トンくらいの水が抜け、大井川の上流の方の渓流の水が消える可能性がある。そこは代替措置を取る”としていて、愚直な会社だなと思った。理論的にも経験的にも、毎秒2トンという巨大な大な水が出ることはあり得ない。それよりも地球温暖化で台風が強く、そして間隔が空くことで渇水が起き、渓流の環境が変わってしまうことの方が心配だ」と明言。「環境アセスメントをし、濁水を出さないような仕組みを取り入れるし、仮に濁水が出ても沈殿させてきれいな水だけ出す。そうした環境対策にはすごく気を使って実施するので問題ない」と説明した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:リニア新幹線 日本社会はどう変わる?
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