トップアスリートが引退を決断するとき、そこには多くの葛藤がある。
まだやれる――。自身も周囲もそう感じていたとしても、客観的に見つめる“もう一人”の自分が、決断を促す。シュライカー大阪の稲田瑞穂は、「日本代表に呼ばれない現実」から目を背けなかった。
「自分のなかで去年の終盤から今シーズンの最初の方で調子もよくて、手応えもありました」
大阪のサイドアタッカーであり、切れ味鋭いドリブル突破を武器にチャンスメイクする稲田は、昨シーズンのFリーグ優勝を争うプレーオフで異彩を放った。王者・名古屋オーシャンズに挑んだプレーオフ決勝の第1戦を3-2で勝利した大阪は、第2戦の終盤まで0-3と、ビハインドを背負っていた。優勝にはあと3点が必要――。そんな場面で口火を切ったのが稲田だった。左サイドを突破してゴールをこじ開けると、その直後には、味方のシュートのこぼれ球に反応して、続け様の得点で1点差に迫ることに成功したのだ。