麻雀において、相手の手牌が透けて見えたらどんなに楽に勝てるだろうか。実際、ゲームではお助けアイテムとして、そんなものが古くから登場するが、圧倒的な麻雀頭脳を持つプロ雀士であれば、これに近いことが実現可能だという。“麻雀IQ220”の異名を持ち、プロ麻雀リーグ「Mリーグ」の中でも頭脳派で知られるEX風林火山・勝又健志(連盟)は「盤面を全て読み切れる時がある」と、驚きの証言をした。どうすればそんな反則級の読みができるのか。
勝又といえども、本当に牌が透けてみえるわけではない。ただ、卓上に並ぶ状況証拠を整理していくと「相手が効率的に打っていれば」、大半のことが見えてくる。「麻雀って読めないゲームなんですけど、体感で『あれ?読めるかも』と感じる時があるんですよね」と、とてつもないことをあっさり言った。一通りの説明をまとめると、勝又の頭の中にはいくつかの「ゾーン」があるようだ。
シンプルな例として、河に同じ牌が4枚捨ててあれば、その牌はゾーンから消える。1~9の数牌(シュウパイ)の場合、同じく4枚捨ててあれば、少なくとも連続形の可能性が消える。そんな作業をマンズ、ピンズ、ソーズ、字牌でこれを繰り返し読んでいくと、よほど相手が特殊な打ち方をしない限り、相手の手牌のパターンもどんどん絞られていく。「他のゾーンはわかっているから、ここのゾーンだけ読みに行く、みたいな感じですね。特にリーチや2副露(フーロ)している場合は、アガリたいから効率的に打っていることが多い。だから読めたりするんです」。
読みの精度が高まるとどうなるか。相手の攻めに対して、切り飛ばせる牌が増える。相手のパンチを、ギリギリでかわせるようなものだ。「ギリギリが分かれば、微妙な一牌が押せるようになるかもしれない。自分のアガリがあるかもしれない」と、カウンターを取れるようになる。相手からすれば、いくら攻め立てても前進する足を止めず、自分に対して向かってくることほど、恐れを感じることはない。これが勝又の言う「踏み込む」という行動だ。
なお、勝又が全力で集中する時、あるクセが出る。「普段は感情を出さないようにしているんですが、思わず出ちゃう時はあるんですよね。そういう時は読みに入り込んじゃってる時ですが」と笑うが、その時はつい頭をかく。「麻雀への集中力は95%にして、残りの5%で牌をこぼさないとか、多牌・少牌をしないとか、相手に情報を与えないように一定のリズムで打つことを心掛けているんですが、100%になっちゃうとくせが出るらしいです」。見えないものを無理にでも見ようとする集中力。しかも時間には限りがある。長くても数分の間に、考えられる牌のパターン、さらには得点状況まで加味して考える。頭をかき始めたら、その時が一番の勝負どころというサインなのだろう。
研究熱心であることでも知られる勝又は、常に麻雀のトレンドの変化についても考えている。日本プロ麻雀連盟で、若手プロの講師を務める時でも、斬新な発想はすぐに研究対象にする。「理論にもニューウェーブがありますからね。僕は麻雀はじゃんけんだと思っていて、当たり前ですが相手がグーで自分がパーなら得。相手がパーならチョキ。ずっとグーを出していたら勝てないですから。10年前はみんなグーを出していたのに、この2、3年でチョキを出してきたら、今度は自分がグーを出さないといけないと考えています」と、簡単な例で説明したが、実践するのは非常に難しい。そもそも麻雀において、相手がグー・チョキ・パーのどれを出してきたのかすら、アマチュアレベルでは分類できないかもしれない。
とてつもない集中力と、果てしない探求心から“麻雀IQ220”の異名を取ったが、それもだいぶ前の話。今、その麻雀IQはいくつなのか。それともIQでは表現できない、新たな領域に足を踏み入れているのか。いずれにしても、勝又が頭をかいた後に切る牌に、膨大な量の情報が詰め込まれていることは間違いない。







