そういえば、あいつは今年の忘年会麻雀、予定が合わないな――。俳優兼プロ雀士の萩原聖人(連盟)にはこの時期、そんな思いが訪れているだろうか。萩原と同じく麻雀が大好きだった俳優・滝口幸広さんが亡くなってから、もう1カ月以上が経った。周囲の仲間たちが絶句した訃報に対して「実感を持たない」という向き合い方をしている。「電話のメモリに20年以上会ってない人もいっぱいいるわけじゃないですか。だから僕は亡くなった人の連絡先は消さないんですよ」。15年以上も付き合ってきた仲間とは、会えない年末だけれども、心は生前そのままだ。
萩原と滝口さんの付き合いは長い。「渋谷で一緒にパチスロしたのがもう15年以上前。麻雀より先でしたね」と、俳優業で一緒に仕事をせずとも、共通の趣味を持った仲間になった。後にサイバーエージェントの藤田晋社長とともに作った著名人リーグにも誘い入れると、プロ顔負けの実力を見せ、後の番組出演にもつながった。最後の対戦となったのも、このリーグでのこと。「亡くなる2日前に一緒に打ったんですよ。トップ取られましたね」と振り返った。最後ではあるけれど、その口調は最後の雰囲気をまとわない。この後に、長丁場のロケでもあって、しばらく打てなくなるという意味での「最後」。そのぐらいのテンションだ。現実には、リーグを暫定トップで終えた滝口さんの結果が残った。「残念だけど、あいつは規定回数打てなくなっちゃいましたけどね」。
亡くなってしまった実感を持たないことと、忘れてしまうことは違う。常に意識の中にある。訃報の翌日、ロケで豊橋に行った時のことだ。「ホテルに来たりしないかな、とか考えたりするんですよ。わかります?なんか、こういうの」と、たまたま連絡が取れなかっただけで、ひょっこりと顔を出すかもしれない。そういう種類の実感のなさ。先述した著名人リーグも、多忙な人々の集まりゆえに1カ月、2カ月とご無沙汰になる人も多い。麻雀以外にも多くの人と知り合い、そのまま音信不通なんてことも数え切れない萩原にとって、しばらく顔を見ないということが、亡くなったという現実とあまりリンクしないのかもしれない。「たまたま会っていないだけっていう感覚でいるんですよね。だから亡くなった人の連絡先は消さない。いつかは会えるという感覚。当然、ご冥福はお祈りするし、かといって現実逃避でもなく、そういう向き合い方もあるし、大切な友人の一人は簡単に失えないですからね」と語る様子には、何かを無理をしたようなものもない。
現在、プロ麻雀リーグ「Mリーグ」の選手として活躍する萩原に、滝口さんがプロ雀士となることへの相談を受けたことがある。俳優として語り合うこともあったが、麻雀についてはとにかく厳しく接したという。「もっといろんなところを直さなきゃいけないと、割と厳しく言いましたね。やっぱりMリーグ入りを目指してプロになりたいと思っていたと思うんですけど、それじゃダメだと。自分もプロになるまで30年かかったし、単に強いからとか、自信があるからじゃダメ」と、真剣に接した。今、Mリーグという大舞台が雀士・萩原の主戦場にはなっているが、まだMリーグが影も形もなく、さらには現在のように対局番組がたくさんなかったころから「俳優雀士」として引っ張ってきた者とすれば、麻雀業界全体を盛り上げる、背負うような覚悟や決意が欲しかったのかもしれない。ただ、それだけ強く接したのも、その点さえクリアすれば、将来有望な俳優雀士になると思ったからだろう。
まもなく終える2019年。2020年の新年会麻雀にも、滝口さんは来られない。ただ萩原の中では、これからも「ちょっと今、あいつは忙しいから」という思いで、連絡先もそのままになる。「やっぱり記憶から無くならない限り、亡くなった人はいないというか。彼は俳優だったし、たくさんの人の心にいろんなものを残してくれた男じゃないですか。だから死んでないって気持ちなんですよ」。芝居で魅了し、打牌で魅了する。ファンの心の中に生き続けることを本望とする2人の関係は、これから先もずっと続く。







