2019年、さいたまスーパーアリーナでの年末格闘技イベントは、2年ぶりに29日、31日の2大会開催となった。29日に行なわれたのは『ベラトール・ジャパン』。米国メジャー団体の日本初イベントだ。そこで組まれたのがエメリヤーエンコ・ヒョードルvsクイントン“ランペイジ”ジャクソンのビッグネーム対決だった。
これはベラトールのスコット・コーカー代表が「この試合は日本でやりたい」と主張して決まったもの。ヒョードル引退ツアーの1戦目であり、日本でのラストマッチになる。ともにPRIDE時代、日本のファンを熱狂させた選手。さいたまスーパーアリーナでも何度となく名勝負を見せてくれた。当時から格闘技を見ているファンにとっては感慨深い試合であり、ランペイジも思い入れたっぷりにPRIDEのテーマで入場している。
だが、試合そのものはエモーショナルなものにはならず、一方的な展開で終わった。序盤から圧力をかけ、テンポよくパンチを放っていったのはヒョードル。受けに回ったランペイジは手数が少ない。体つきも仕上がっていないように見えた。コーカー代表は「ヒョードルのパンチに耐えるために体重を増やしたのではないか」と語ったが、中継の解説を務めた中井祐樹氏ははっきり「オーバーウェイト」と指摘している。
(「この場所で勝つのは特別な思いです」と試合後のヒョードル)
1ラウンド2分44秒、右ストレート一発でのKO。「ここは特別な会場」、「いい新年の贈り物ができた」と語ったヒョードル。しかし試合そのものが突きつけたのは、実力差、コンディションの差という“現実”だった。
「タイムスリップして、15年若返った2人が闘ったらこんなにぬるくならなかったんじゃないですか。もっと殺伐としたものになっていたと思います。これでは未来はない。彼らのメモリアルなイベント、ファンの確認作業としてはよかったですが」
そう語ったのは、協力体制にあるRIZINの榊原信行CEO。このカードが最前線のものではないということも含めて“現実”だろう。
PRIDE時代から、ヒョードルは常に無慈悲な存在として対戦相手に立ちはだかってきた。アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラもミルコ・クロコップも、この男に夢を阻まれた。そしてこの日本最後の試合でも、ヒョードルは微笑とともに“現実”を残したのだった。少し苦く、だが納得のいく後味だ。
文・橋本宗洋
写真・RIZIN FF