1月3日に開幕した国別対抗戦『ATPカップ』は初日から荒れ模様。シドニーではブルガリアがイギリスを破り、ブリスベンでは世界7位のアレクサンダー・ズベレフを擁するドイツに開催国オーストラリアが3連勝。そしてパースではテニス大国アメリカがノルウェーに敗れた。
世界ランク19位のジョン・イズナーを筆頭にシングルスのトップ100を3人、2人のダブルス・トップ50を揃えたアメリカが、シングルス54位のキャスパー・ルード以外はツアー経験すらないノルウェーに敗れる番狂わせ。ルードがイズナーにマッチポイントから逆転勝ちしたからこそのドラマだったが、ノルウェーの2番手、ヴィクトル・ドゥラソビッチの貢献を忘れてはならない。シングルスでは世界ランク33位のテイラー・フリッツに2-6 2-6と完敗したが、ルードと臨んだダブルスで大いに暴れた。
最終試合のダブルスでルードとのペアで挑んだ相手は、ダブルスの世界ランク24位のラジーブ・ラムと同42位のオースティン・クライチェク。ラムは2つのマスターズ・タイトルを含み、19のツアータイトルを持つダブルスの名手で、うち一つは今回のパートナー、クライチェクとのペアで獲得したものだ。
22歳のドゥラソビッチのランキングはシングルスが332位でダブルスは696位。まだグランドスラムの予選にも出場したことがない。しかし、イズナーに勝って勢いにのるルードに引けをとらないプレーを見せた。大胆なショットでウィナーを放ったかと思えば、ボールの高低、緩急をうまく使い、豊富なアイデアで相手の意表をつく。第1セットを4-6で失ったが、第2セットを6-3で奪い、10ポイントのマッチタイブレークへ。思いがけない展開にムードが悪化するアメリカペアに対し、若いノルウェーペアは勢い全開で大金星をつかんだ。
「シングルスは緊張していいプレーができなかったけど、ダブルスになると少しリラックスできて自分のプレーが出せた。雰囲気もいいし、こんなにいい会場でプレーできて幸せだ」とドゥラソビッチ。ノーアド、マッチタイブレークで行なわれるダブルスでは運や勢いに試合が左右されることも多いが、それでも稀に見る番狂わせといっていい。通常、これほどランキング差のある選手同士が同じ舞台に立つ機会はほとんどない。これぞATPカップならではの醍醐味だろう。その国のトップの選手のランキングによって出場が決まるため、500位、1000位の選手でもこうして世界のトッププレーヤーたちと肩を並べて戦えるのだ。22歳のドゥラソビッチは自分自身の可能性を示したと同時に、世界中のテニスプレーヤーに希望を与えた。
またこの大金星に、試合を中継したAbemaTVの実況も「勝っちゃいました」と驚きを隠せない様子だった。
文/山口奈緒美