ジョコビッチ、ナダル、フェデラー、マレーの強固なビッグ4陣営が崩れたのは2017年のこと。そこに割って入ったのがドイツのアレクサンダー・ズベレフだった。ズベレフは20歳になったばかりでランキング3位を記録。20歳でのトップ10入りは2007年のジョコビッチ以来の快挙だった。さらに2018年にはツアー最終戦のATPファイナルも制し、ズベレフは次世代のチャンピオン候補として名を轟かすことになる。
このズベレフはジュニア時代から日本ではよく知られた存在だった。と言うのもアレクサンダーの兄、ミーシャもテニスプレイヤーなのだが、彼と親交があったヨネックスヨーロッパの担当者が「凄い才能の弟がいる」といつも喧伝していたからだ。その言葉通り、アレクサンダー・ズベレフは、2014年、17歳でトップ200、翌2015年には18歳でトップ100、さらに2016年にトップ50 、そして2017年にトップ3と、まるで漫画のような成長曲線を描き現在に至っている。年齢は22歳。日本ならまだ大学生の年齢なのだから驚かずにはいられない。
現在、ビッグ3を形成しているジョコビッチ、ナダル、フェデラーだが、年齢的にそろそろ苦しくなるのでは、と言われ始めている。オリンピックまでは3人のモチベーションも高いが、それ以降はすごく流動的。男子テニス界はすでに新しい渦を孕んでいる。その筆頭にいるのがズベレフであり、2019年のATPファイナルを制したステファノス・チチパスなのだ。
「なぜテニス大国とは言えないギリシャからテニス選手が生まれるの?」と思われる方がいるかもしれないが、ひょっとしたらギリシャ系の人にはテニスに向いた血が流れているのかもしれない。と言うのも、古くはサンプラスから、フィリポーシス、そして現在ならキリオス、チチパスと、凄い才能を持ったギリシャ系の選手が存在しているからだ。名前の最後に「ス」が付く選手はつねに注目しておいてほしい。
さてドイツとギリシャの対戦だが、これは2018年と2019年のツアー最終戦王者同士の戦いとなる。ズベレルとチチパスの対戦成績は、意外にもチチパスが4勝1敗と大きくリード。この「ATPカップ」ではどのような戦いになるのか楽しみでならない。
ただし、ギリシャは団体戦に向いているとは言いがたい。チームリストを見ると、チチパスの次に登録されているミハイル・ペルポララキスのランキングは487位。はっきり言ってチャレンジャーレベルのプレイヤー。ナンバー2にランキング35位のヤン レナード・ストルフを擁するのがドイツ。チーム戦としてドイツの有利は明らかだ。
文/井山夏生(元テニスジャーナル編集長)
写真/Hiromasa MANO