「ATPカップ」で優勝するためには、予選(リーグ戦)で3勝、本戦(トーナメント)でも3勝しなければいけない。その6試合を10日間でこなす日程となっているので、決勝に進むような強豪国でもかなりの負担が強いられる。つまり、国としてのタフさが求められる。そこで重要になるのが、「層に厚さ」だ。その点でもっとも秀でているのがフランスだ。
層の厚さを計る基準として挙げられるのがランキングだろう。「トップ100に何人の選手がいるか?」……この物差しで見るとA組では、ジョコビッチを擁するセルビアよりもフランスの方が上にくる。トップ100以内に10人以上の選手を持っているのは、アメリカ、スペインとフランスの3国だけ。今回の「ATPカップ」では、フランスはガエル・モンフィス(10位)、ブノワ・ペール(24位)、ジレ・シモン(55位)とシングルス用に3選手を揃え、その上でニコラス・マユ、ロジェ-バサランというダブルス専用の選手を選んできた。マユ/ロジェ-バサラン組は昨年の楽天ジャパンオープンダブルス優勝ペア。まさに層の厚さを見せつけるようなメンバー構成だ。
対する第1シードのセルビアは、シングルス1のノバク・ジョコビッチで確実に1勝を挙げ、シングルス2のドゥサン・ラヨビッチも勝利して2−0とするのが理想だ。シングルスで勝利を決めればダブルスで無理をすることはない。しかし、ラヨビッチが敗れて1勝1敗となった場合は、ジョコビッチがダブルスも戦うことになりそうだ。2019年のデビスカップ準々決勝のロシア戦では、ジョコビッチ/トロイツキの2人が組んで戦っている。母国愛が強いジョコビッチは「ATPカップ」でも優勝を目指して戦うはずだ。
ほとんどのタイトルを取り尽くしたジョコビッチにとって、あと一つ持っていない宝がオリンピックのメダルだ。2019シーズンの途中でツアーを離脱したジョコビッチは、かなり無理したスケジュールで楽天ジャパンオープンを復帰戦に決めた。なぜなら、2020オリンピックの会場を下見しておきたかったからだ。この大会のシングルスで軽く優勝したジョコビッチは、ダブルスでもセルビアの若手と組んで出場している(1回戦敗退)。これもオリンピックを見据えてのことだ。オリンピックイヤーのジョコビッチのモチベーションは高そうだ。
A組、第1シードと第2シードの対戦はどういう試合になるのだろうか? イメージしてみよう……シングルス1ではジョコビッチが勝つだろう。ダブルスではフランスが優勢だ。そうなるとポイントとなるのがシングルス2。ラヨビッチと戦うのは、ペールなのかシモンなのか、そこに注目だ。
文/井山夏生(元テニスジャーナル編集長)
写真/Hiromasa MANO