1月3日に開幕したATPツアー(男子プロテニス協会)主催の国別対抗戦『ATP カップ』の準決勝は「全豪オープンの前哨戦」と呼ぶには熱すぎる、激しすぎる戦いが繰り広げられた。その独特の雰囲気の中、ラケットやボールに八つ当たりする反則行為も多々目にしたが、終盤にきて鬼気迫るラケット破壊で周囲を凍り付かせたのはノバク・ジョコビッチだ。
セルビアとロシアの準決勝。セルビアは世界ランク34位のドゥサン・ラヨビッチが17位と格上のカレン・ハチャノフを7-5 7-6(1)の接戦で破って先勝し、世界ランク2位のジョコビッチと5位のダニール・メドベージェフとのエース対決を迎える。ジョコビッチはメドベージェフにこのところ2連敗中。いずれも3セットマッチの最終セットで敗れている。
第1セットはジョコビッチが6-1と圧勝。第2セットもいきなりブレークに成功したが、メドベージェフの真骨頂は試合中盤から増す粘り強さだ。両者の力と技が激突する凄まじい展開が待っていた。ジョコビッチは第2ゲームで8回のデュースの末にブレークバックされると、第4ゲームでもブレークを許す。思い通りにいかなくなった展開に早くも苛立ちは限界に達し、ラケットを全力でコートに3回叩きつけて破壊した。しかし、飛び散った破片を自分でタオルを使って黙々と掃除し、ここから冷静さを取り戻すのもジョコビッチ。第7ゲームでブレークバックに成功し、5-6のサービスゲームをダブルフォルト絡みで落としてセットを失ってももう怒りはしなかった。
鉄壁の守りと正確な攻撃力。最終セットは両者共通の武器を出し尽くす攻防となった。第9ゲームをブレークしたジョコビッチが迎えたサービング・フォー・ザ・マッチでも簡単にドラマは終わらない。ジョコビッチの30-0からメドベデフが両サイドからのウィナーを連発して30-40に。ミラクルショットの応酬に、大会を中継するAbemaTVで解説を務めたプロテニスプレーヤーの佐藤文平氏も「信じられない」と声を震わせ、ジョコビッチのマッチポイントをメドベージェフがバックハンドの逆クロスへの強烈なウィナーでしのいだときには、「僕、もうしゃべんなくていいですよね?」と視聴者に異例の問いかけ。すぐさま、「ここはいいよ、集中して見よう!」「今はいいです」「黙ってて」「言葉はいらん」などとコメント欄には“快諾”の声があふれた。
勝者を決めるのが惜しいほどのバトルはその後、ジョコビッチがこのゲーム3度目のメドベージェフのブレークポイントをしのぎ、サービスエースで握った2度目のマッチポイントのラリー戦をものにした。ジョコビッチは叩き折ったラケットをスタンドのファンにプレゼント。思わぬ出来事にファンの男性はラケットにキスをして歓喜していた。
文/山口奈緒美