かつて箱根駅伝を目指した若者が、夢の舞台であるK-1デビューのキップを手に入れた。
新鋭発掘を目的とする『格闘代理戦争』では、優勝すると賞金およびプロデビューの特典がある。当然、エントリーするアマチュア選手のモチベーションも高い。仕事をやめ、故郷を離れ、さまざまな形で人生をかけて勝負しているのだ。「優勝できなかったら格闘技をやめる覚悟」という者もいる。
ゲーオ・ウィラサクレック監督率いるチーム「ゲーオーズ」のメンバー・齋藤紘也もその1人だ。「絶対に勝たなきゃいけない。優勝してヒーローになる」という強い思いがあったと言う。
1月18日に行なわれた決勝戦。齋藤はSKR連合との3vs3団体戦の中堅として出場した。相手は大将・古宮晴。1回戦で3人抜きを達成した強豪であり、この日はこれが2試合目だった。古宮はゲーオーズの先鋒・大関敬真と延長戦まで闘っており、少なからず疲労があったはずだ。だからこそ、齋藤は“必勝”の思いを強くした。
「敬真さんが2人抜きして、古宮くんを疲れさせて。ここで勝たないと自分がいる意味がない。何がなんでも勝って優勝してやろうと思ってました」
試合後にインタビューすると、齋藤はそう振り返った。序盤からヒザ蹴りを連打し、そこからパンチのラッシュ。2度のダウンを奪っての快勝だった。チームの優勝を決める勝利だ。
ムエタイの名門ウィラサクレックジムに所属する齋藤は、もともとヒザ蹴りを得意としていた。古宮とは身長差もあり、得意技が活きやすい闘いだったそうだ。
「接近戦でヒザ、離れたらパンチ。作戦通りの試合ができました。リーチ、身長は自分のほうが有利。遠い距離でも自分のパンチが先に当たると思ってました。ボディが効いてるのは分かったんですけど、古宮くんは倒れなかった。気持ちが強いなと。最後まで気が抜けなかったです」
野球、陸上、キックボクシングの経験があり、陸上でインターハイにも出場。陸上の推薦で大学に入り、箱根駅伝出場を目指して駅伝部に所属していた。しかし気持ちは格闘技へ。大学の寮を出て、今度はウィラサクレックジムの寮に住み込んでムエタイ浸けの日々を送っている。
「推薦で入った部を辞めるっていうのは大変なことなので。そうまでして格闘技をやるからには絶対に成功しなくちゃいけないんです」
トーナメント決勝進出が決まり、試合に向けての練習を重ねていた時期にはちょうど箱根駅伝も行われた。齋藤の大学も出場しており、同い年の選手も箱根を走っていた。
「みんな活躍してるなぁと。自分も負けられないっていう気持ちになりました。刺激になったし、やる気にさせてくれましたね」
夢の舞台は箱根からK-1へ。人生の大転換、その第一歩を踏み出した齋藤。これからは大学の仲間より一足先にプロ=大人の世界での闘いが待っている。