オーストラリアのメルボルンで開催中の全豪オープンで、グランドスラム出場16回目の西岡良仁が自身初のグランドスラム3回戦進出を果たした。西岡は現在世界ランク71位だが、1回戦で世界ランク40位のラスロ・ジェレ、2回戦では世界ランク32位のダニエル・エバンスと格上を連破。エバンスには6-4 6-3 6-4の快勝で、錦織圭が右肘の故障で欠場した今大会を170cmの小さな体で大いに盛り上げている。
「ATPカップからずっと調子がいい。シーズンの初めに満足のテニスができて、あそこで得た自信は大きいですね」
これで、今季早くもトップ50を4人も破ったことになる。昨年は1年に10人のトップ50を破り、うち2人はトップ10という実績を残したが、今季はそれを上回るハイペースで大物食いっぷりを発揮。こうなれば、もうまぐれではない。
西岡は自身のテニスの生命線として、第一に“フットワーク”、続いてゲームメークを挙げるが、体格のハンデ、つまりパワーやリーチの面でのハンデを補うために、こうした要素を磨いてきた工夫と努力が、最近のプレーと結果につながっている。
ツアー屈指の俊敏さを生み出す西岡のフットワークは常に相手を疲弊させるが、ここではゲームメークのほうに焦点を当ててみたい。「どうやったら勝てるのか、試合の前にいろんな作戦を考えて、実際に試合に入ってから、その作戦をその場その場の状況に照らし合わせて調整していく」という西岡は、そのプロセスを何よりも楽しんでいるようでもある。3回戦進出がかかったエバンスとの一戦では、〈策士〉としての性分を存分に見せた。
強風が吹き荒れる中での戦いだった。風は公平と言いながらも、誰もが「やりたくないな」という消極的な気持ちを抱くもの。西岡は「風を利用して、相手にとってよりやりにくい展開にもっていくことを考えた」と言う。具体的には、風にブレやすい緩いボールを多用してミスを誘い、後半はよりネットに出てアグレッシブなプレーを展開。相手に作戦を読ませなかった。
エバンスもまた、今シーズンを好発進した選手の一人。『ATPカップ』ではダビド・ゴファンやアレックス・デミノーという2人のトップ20プレーヤーも破り、アンディ・マレーが欠場したイギリスのエースとしてチームのベスト8入りに貢献。そしてグランドスラムで初めてシードがついた29歳は、試合後にこう明かしている。
「ニシオカとはやりたくなかった。彼が1回戦で負けるように祈ってたよ。自分のプレーをさせてもらえない。しかもこの強風だ。彼がどういうプレーをしてくるかはわかっていたから、嫌だった」
過去2度の対戦ではいずれも西岡が快勝している。嫌らしさ全開のプレーで相手に苦手意識を植えつけ、戦前から優位に立つ……これも、西岡が時間をかけて獲得した強みの一つかもしれない。
ますます楽しみになる3回戦。相手は第2シードで16のグランドスラム・タイトルを持つノバク・ジョコビッチだ。『ATPカップ』では単複の活躍でセルビアを初代チャンピオンの座に導いた。西岡は昨年11月、もう一つの国別対抗戦であるデビスカップで対戦し、1-6 2-6と完敗。「弱点がまったくない。これまで対戦したトップ選手の中でも一番崩しにくい選手だった」と振り返る一方で、小さな手応えをたぐり寄せ、勝つためのイメージを膨らませている。
「前回は焦ってミスが増えてしまった。5セットは長いので、今回は焦らず展開を作っていきたい。ジョコビッチ選手に対して勝率のいい(ロベルト・)バウティスタ アグート選手や(ダニール・)メドベージェフ選手のプレーも参考にしながら、しっかり分析していきたいと思います」
もっとも困難で、もっともワクワクする分析の結果は、センターコートの大舞台でどう披露されるのだろうか。
文/山口奈緒美
写真/Mannys Photoguraphy