記録ずくめの初優勝で一躍、時の人となった大相撲の徳勝龍(木瀬)。史上初、1世紀ぶりという記録が並ぶ中、ファンの心に強く刺さったのは、笑いと涙が溢れた優勝インタビューだったかもしれない。徳勝龍本人もさることながら、インタビュワーを務めたNHK小林陽広アナと、絶妙な会話の“パス回し”には、元横綱から著名な好角家、さらには視聴者からも絶賛の声が相次いだ。
表彰式で行われた優勝力士インタビューに、中継していたAbemaTVの視聴者コメントを交えるとこんな様子だ。
冒頭に小林アナから祝福されると、徳勝龍は四方に向かって順番に頭を下げた。早くもここから「律儀な男」「全方面w」「礼儀正しい」と、早々に好感度グラフが急上昇。名インタビューを予感されるものとなった。そして最初の質問と答えで、一気に館内が盛り上がる。
―改めて国技館の四方を見渡しました。この光景、どう見えていますか。
自分なんかが優勝していいんでしょうか(笑)
「すごくいい景色です」「最高です」あたりが、真っ先に予想される言葉だったが、立ち合いからこのコメント力。誇るどころか恐縮したことで、「いいんだよ」「かわいい」「人柄出るね」「好感度爆上げ」と、ファンの心に完全に火がついた。
次なるパワーワードが出たのも、定番の質問から。優勝を意識したかどうか。徳勝龍の選んだ“技”はこれだ。
意識することなく…うそです。めっちゃ意識してました(笑)
これまでの力士像なら、徳勝龍が最初に言いかけた「意識することなく」という出だしから、「目の前に一番に集中して」に続くのが王道パターン。ところが、まさかの「うそです」と来たものだから、盛り上がらないはずもない。「うそついたw」「正直w」と、もうコメントの数は増え続けるばかりだ。
ここまで徳勝龍の優れたコメント力が光ったが、ここで小林アナも変化を加えてきた。「(優勝争いの)先頭に立っても意識しないと言われていましたが、うそだったんですか」と、質問の中にもインタビューではめったに出てこない「うそ」という言葉を重ねたのだ。そして、この切り返しパスで出てきたコメントがこれだ。
ばりばりインタビューの練習をしてました(笑)
意識しないと言いかけたところから、大きく逆サイドに展開し、そしてまさかのインタビューの練習。そんなことを本番で言う力士もいなければ、そもそも練習をした力士が過去にいたかもわからない。それほどに強烈な決まり手が炸裂した。視聴者も「ファンが増えるよ」「なんか新鮮なインタビュー」「こんなほのぼのしたインタビュー初めて見た」と絶賛した。
ここまでなら「初優勝&爆笑インタビュー」でニュースのタイトルになるところだが、ここで一気に“転調”する。このやりとりからだ。
―(優勝を決めた一番で)危ないと思った瞬間、後押ししてくれたものはなんでしたか。
場所中に、恩師の近畿大学の伊東監督が亡くなって…(涙)監督が見てくれてたんじゃなくて、一緒に土俵で戦ってくれたような、そんな気がします。
場所中に突如として訪れた恩師の死。徳勝龍の「勝」は、亡くなった伊東勝人さんの「勝」だ。3文字の四股名のど真ん中で支えてくれた恩師について、どこかでは質問が出る。名前を出さずとも、苦しい場面での「後押し」と聞けば、本人も自然と口から出てくるというものだ。視聴者の反応は「ここ泣くわ」「もらい泣き」「一転涙ぐむ」「アナウンサー泣かせたな」というもの。返り入幕、33歳のベテランという徳勝龍の状況も重なり、ここでグッと締まった。
この優勝インタビューを聞いていたAbemaTVで解説を務めた元横綱・若乃花の花田虎上は「かわいらしいですね」とにっこり。ゲスト出演していた高須クリニック・高須克弥院長も「インタビュー最高でしたね。気の利いたことを言いますね」とべた褒めだった。多くを語らず、土俵で全力を尽くすのが相撲道、力士像と長年語られてきたが、この日のインタビューは新時代到来を予感させるようなものだった。
(AbemaTV/大相撲チャンネルより)