子どもや部下を叱りづらくなった?「褒め」全盛の時代、バランスをどう考える?
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 身近な人を褒めて感謝の気持ちを伝える「一日ひと褒め条例」(兵庫県多可町)や、“褒め力”を競うカードゲーム「ほめじょーず」、あるいは少子化で車離れが進む中、“褒める”指導で卒業生が7.5倍増、事故率が52%減少した「ほめちぎる教習所」など、日本全国で褒めることが注目を集めている。

 厚生労働省の「体罰等によらない子育てのために」でも、「子どもが良いことをしたら、すぐ褒めることが自信につながります」「結果だけでなく、頑張りを認めましょう」と推奨されており、親たちからも「本とか雑誌とかを見ると褒めてる方がいいよって書いてある」(40代女性)、「怒ってばかりだと本人が委縮しちゃうところがある。褒めて、本人が何をしたいのかちゃんと聞いてあげるようにしている」(30代男性)、「褒めて褒めて褒めちぎる子育てしている。怒るのも疲れる。褒めるって意識を変えるだけでも親としても楽」(30代男性)との声が上がる。

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 しかし、「褒めてばかりじゃ、しつけにならない」、「親子は友達じゃない」や「褒めてばかりで育ったから、イマドキの若者はちょっと怒られると、すぐ辞める」などの意見も少なくない。中には「ほめる子育てがわが子を不幸にする」「弊害が深刻化!忍耐力が欠如する子が急増」と主張する専門家も存在する。

 心理学者の榎本博明氏は「“褒めて育てる”があまりに広がっちゃっているせいで、傷つきやすい心が作られてしまうということが起きている。すぐに心が折れてしまう」と指摘する。「とにかく褒めてもらえると、いい気持ちになる。それが普通になると、やる気が起きない、思い通りにならないといった状況に弱くなる。小学生の暴力事件が増えて、思い通りにならないと暴れるとか、文句を言うなどといったことにもなる」と持論を展開する。

 実際、会社員からは「怒るとしょげるし、辞めちゃったりもある」(30代男性)、「注意したつもりがムッとされたのはザラにある」「すぐやめちゃう。いやなことあると」「パワハラだセクハラだって言われるので、どちらかというと下の子たちより僕らの方が気を遣う」(40代男性)と、「打たれ弱い・失敗を恐れる」ことへの不満の声も聞かれる。

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 「日本ほめる達人協会」の松本秀男専務理事は「私たちは“価値を発見して伝えること”と定義している。子相手を元気にしてあげられるし、その人の資質、能力、才能、可能性を引き出してあげられる。失敗しても、チャレンジすごいよって褒めることができる。ゴールに向かって一緒に頑張れるよう、応援するということ」と話した上で、次のように主張する。

 「褒めるということは、甘やかすことではない。子どもがした素晴らしいこと、成長したことを見てあげて、教えるということが大切だ。逆に言えば、先のステップ、目指すべきゴールを見せないまま褒めっぱなしで終わると打たれ弱くなってしまう。あるいは“横でなく縦で褒める”。横と比べて褒めるのではなく、上下、つまり“伸びしろ”、頑張った部分や挑戦した部分、工夫した部分であればいくらでも褒めることができる、成長に繋げてあげられる」。

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 その上で、叱ることについては「叱ってはいけないということではない。褒めるのも、叱るのも、相手を成長させてあげるためだ。この場面ではどう言った方がよいのか、考えて伝えることが大事だ。例えば子どもが本当に危ないことをやっていたり、他人の人格を傷つけるようなことをしていた場合は注意をしてあげないといけない、警告しなくてはいけない。その場合は、だらだら言わずに“いけませんよ”と短く言い、どうしてそういうことをしたのか、気持ちを聞いて、しっかりフォローをしてあげることが大事だ。職場でも言わなければいけない部分は言わないといけないし、上司なりが人間力を上げ、生き様をしっかり見せてあげなければならない。その際、単に上から下へ、こちらの価値観だけで物を言うのではなく、“この人に叱られたこと自体が嬉しい”ということにしないといけない。本気でその人のために考えて言ってあげられるかどうかだ。言われた方は“嬉しい。私のために思ってくれている。成長を考えてくれている”と思う」と語った。

 一方、「日本人は褒め下手だから褒めることを意識するのはいいことだと思う」との意見については、「日本人の場合、褒められる方も“横並びの思考”があるので、“そんなんじゃないのに”、“みんなと同じでいたい”と思ってしまう部分はあると思う」と指摘した。

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 幼児教育研究家の平川裕貴氏は「30年くらい前、“褒めて育てよう”という考え方がアメリカから日本に入ってきたと思う。アメリカでは“しつけは親の役目”ということがはっきりしているから、学校の先生はしつけに口を出せなくても、親は子どもに厳しくしていた。それが厳しくなりすぎてしまったので、自由にのびのび育てようという教育が広がった。それがそのまま日本に入ってきてしまった。ある時、自分の教室へ見学にやってきた親子がいて、子どもが教材として使うプラモデルやおもちゃなどひっくり返した時、お母さんはニコニコしながら“うちの子は自由にのびのび育ててるんです”と言って注意しなかった。また、かつては核家族ではなく、近所のおじさんやおばさん、学校の先生も口を出す教育環境だったが、そこに“褒めて育てよう”が入ってきてしまったものだから、叱ることなく、何をしても“のびのび育てている”になってしまった」と話す。

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 「褒めてばかりでも伝わらないし、叱らないといけない場面ではしっかりと叱るという、バランスが大切だ。叱る=怒鳴ると思われがちだが、やはり褒めること同様、基本は教えるということだ。例えば、子どもが誤って水をこぼしたのを見てカチンときて怒ってしまうかもしれないが、失敗することはある。そうではなく、命に関わるようなことや、人にすごく迷惑をかけるような時は強く叱らないといけない。そのメリハリをつけることが大事だ」

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 また、「とにかく子どもによく思われたいという“いいママ症候群”」の親もいると指摘。「いい親になろうと思わなくてもいい。子供が2歳なら、親も2年目だ。そんなに上手にできるわけがないので、もっと自分の感情を出して、親も泣く時は泣いていい。そういう姿を見せる。そして、学校でいい成績をとらせるために教育しているのではなく、社会で生きていけるようにしてあげるための教育だ。だから厳しいことも言わないといけないし、優しく、頑張っているところも認めてあげない。褒めて伸びる子もいれば、叱られて頑張る子もいる。それは親にしか分からない」との考えを示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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叱る教育は絶対禁止!?”褒める”弊害も?
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