2月7日にインドネシア・ジャカルタで開催されたONE Chmpionship「ONE: WARRIOR’S CODE」において「格闘代理戦争3rdシーズン」で優勝し、ONEとのプロ契約から連勝を続けている平田樹(K-Clann)が、ナイリン・クローリー(ニュージーランド)にパウンドの連打を浴びせて勝利した。試合結果だけを見れば「完勝」と言える内容だが、試合前の紆余曲折もあり、課題も残した勝利だった。
事前に発表されていたビー・ニューイェン(ベトナム/アメリカ)から急遽変更した相手は典型的なストライカーであるクローリー。ONEの下部リーグウォリアー・シリーズから本戦へ上がってきた選手である。直前の対戦相手の変更というアクシデントに加え、平田自身も今回、計量を不通過というミスをおかしてしまった。
厳密には体重オーバーではないが、ONE Championshipでは出場前の選手に体重チェックと尿比重をクリアすることが義務付けられている。尿比重のチェックは、総合格闘技の減量で日常的に行われている「水抜き減量」を防止するためにある。防止理由のひとつは、水抜きでクリアした体重を試合直前に増やすという階級制での不平等を防ぐため、もうひとつは急激な水抜きによる減量~増量という危険行為から選手の身体を守るためである。
今回、平田は体重チェックを問題なくクリアしたが、尿比重の計測をクリアできなかった。もちろん意図的ではなかったものの、平田がこの尿比重のハイドレーション・テストに引っかかってしまったことにより、アトム級契約(52.2kg)からキャッチウェイト53.4kg契約に変更となり、対戦相手のクローリーの同意を得て、試合が行われることとなった。
精神的に揺さぶられる要素はあったものの、コール時には両手で観客を煽るポーズも。リング上ですっかり気持ちを切り替えた様子を見せた20歳の肝は座っているようだ。
1R序盤はスタンドの攻防、シャープな動きを見せるクローリーの伸びる打撃に糸口を掴めない平田だったが、ラウンド後半で強引に組んで足を払うとテイクダウン。その後もテイクダウンでマウントポジションをとり、優位にラウンドを終える。
2R、スタンドで打撃を当てるクローリーに対して、あくまでも組んで倒す平田。有利なポジションから鉄槌、横三角絞め。再びスタンドでの攻防でも、体力を削られたクローリーへ容赦なくヒザ、投げを放っての袈裟固めから、腕をロックして小さな鉄槌連発と本領発揮。手応えの掴んだのか、ラウンド終了のゴングを耳にすると、立ち上がり観客を煽るように突如、踊りはじめた。
本人によると無意識でハイになって行った行動、いわゆる「ファイターズ・ハイ」だったそうだが、まさに「その娘、凶暴につき」である。トレーナーによってコーナーまで引き戻されても、カメラ目線で舌を出す大胆さ。日本では賛否を呼びそうな行動だが、このニュー・スターのふてぶてしさにジャカルタの観衆の心は掴まれ、歓声が沸き起こった。
笑顔で臨んだ3ラウンド。平田がダブルレッグで簡単にテイクダウンをとると、バックマウントから鉄槌を連打したところでレフェリーが試合をストップした。
初のKO勝ちでデビューから無傷の3連勝。今回の計量失敗による契約変更には「アスタリスク」が付く勝利という意見も少なくないだろう。しかし平田にとっては、対戦相手の変更、計量の失敗とトラブル続きの上での勝利を、次のステップアップのための試練の一環と捉えるべきだろう。
今回も寝技で圧倒した平田だが、王者・アンジェラ・リーら上位ランカーとの対戦を見据えると打撃でのさらなる成長が求められる。しかし、この強さでも、まだ20歳。無限の可能性と、日本人離れした大胆さ。試合前にはドラゴンボールの「人造人間18号コスプレ」でも話題になった。3戦を終えて「世界で戦える女子MMAファイター・平田樹」を確信した人も少なくない筈だ。