コインハイブ(Coinhive)事件をめぐって東京高裁が7日、昨年3月に横浜地裁が一審で下した無罪判決を破棄し、逆転有罪の判決を言い渡した。
判決に対し、ネット上では「コインハイブに使われているJavaScriptは多くのサイトで広告表示やGoogle Analytics等でも使われている」「ウイルスとは全然違う」「あいまいな基準でウイルスが定義され、実際に違法となる状態は技術者の萎縮を招くのではないか」「これが通るなら動画広告も全部有罪にしてほしい」となど、高裁判決に批判的な意見が相次いでいる。
モロさんは2011年に新設された刑法第168条の2および3のいわゆる「ウイルス罪」に問われていた。また、コインハイブとは、他人のパソコンを利用して仮想通貨を採掘させてお金を稼ぐプログラムで、被告のウェブデザイナーのモロさんは、自身が運営するサイトにコインハイブを設置、サイトに閲覧している人が使っているパソコンの能力を無断で利用し、仮想通貨を獲得していた。
横浜地裁での一審判決後にAbemaTV『AbemaPrime』に生出演した被告のウェブデザイナー・モロさんは「自分のPCで知らない間にお金儲けされてしまうのは何となく嫌だ、何となく気分が悪いという部分は私としてもすごく分かる。そういったモラルの面でもっと配慮ができたらよかったのではないかと感じている」と語っていた。
東京高裁の二審判決では、一審判決同様「反意図性」-プログラムがサイトを閲覧した人の意図に反して実行されたのか-については認めている。その上で一審では、コインハイブがサイトの閲覧者の意図に反して動くプログラムであるものの、「不正とは言えない」との判断、一方、二審では「プログラムは閲覧者が知らないうちにパソコン機能を提供させ、一定の不利益を与えるもので社会的に許容すべき点は見当たらない。不正性が認められる」と指摘している。
深澤諭史弁護士は判断が分かれた理由について「地裁は“不正”と言われたことをそのまま全て認定してしまうと、ネットで良く言われている“デジタルけしからん罪”になってしまって良くないのではないか、そして弁護側の主張でもある“けしからん”の範囲は限定されるべきだ、という主張を汲んだのではないか。一方、実際に危害を加えたか、実際にデータが盗まれるなどのダメージがあったかといったことは条文のどこにも書かれていない。それにも関わらず“不正”について裁判所が限定してしまえば、それは新しい法律を作ってしまうようなものだ。そこで高裁は、司法が勝手に立法してはいけないという解釈で判決を出したのだと思う」と推測する。
「私も高裁の判決はおかしいとは思うが、理論的にその判決を攻撃できるかというと、結構難しい。ただ、“意図に反する”“不正”というのはとても広い概念だ。刑法というものは悪いもの全てを処罰するものではなく、世の中にたくさんある悪い行為の中でも、特に処罰しなければいけないものを選んで処罰するもの。例えば弁護人の先生が地裁から主張しているように、実際に危害を与えるようなものに限定するといった解釈で法律を変えたほうがいいと考えている」。
■池澤あやか「コインハイブよりもバナー広告の方が不快」
国際大学GLOCOM客員研究員の楠正憲氏は「とてもびっくりした。ITエンジニアたちが心配していたのは、電気を使ってしまうようなバグのあるJavaScriptを作ってしまった場合もダメなのか、あるいは広告や計測タグと比べてどうなのか、といった点だ。一審判決後、就活情報サイトの問題が話題になったように、捕まっていないだけで、JavaScriptで何をやっているのかということに皆が興味を持ち始めている。それは日本だけではなく、アメリカやヨーロッパでも同様だ。ただ、今回の判決で、改めて刑法168条の、“何がいけないのか”という範囲をもっと明確にしてもらいたいと思った。プログラムは複雑で色んな機能を持っているし、分からないままに使っている人の方が多いと思う。そのことをちゃんと伝えていなかったと問われるようになってしまうと、プログラマーとしては心配だ。そういう点で、やはり立法府での対応に期待するところはある」と話す。
タレントの池澤あやかも、エンジニアとして今回の判決に憤る。「閲覧者の端末の電力を消費して設置した人が利益を得るようなもののような賛否両論あるものまでウイルスとされることにはすごく違和感がある。これがウイルスだとなれば、バナー広告、Google Analyticsなどの解析ツールさえも悪だとされる可能性がある。コインハイブが出てきた頃は、広告の代わりとなる、新しい収益モデルになるかもしれないという議論もあった。それを受けて、広告を表示させる代わりにサイトに導入していたユーザーも多かったのではないか。個人的にはコインハイブよりもバナー広告の方が不快だし、閲覧者が認識できていない状態で覧者のリソースを利用して何かしら利益を得る行為がNGであるなら、PR表記のないPR記事も同様ではないか」。
すると深澤弁護士も「ホームページの記載を証拠として裁判所に出すことがあるが、その中にアダルト広告が入っていると、それもプリントアウトして提出することになるので、そういう意味では邪魔だと思う。だったらコインハイブの方がいいのではないかという意見もあると思う」と苦笑する。
■山田議員「日本だけが遅れていく」
10日に法務省刑事局に聞き取りを行なったという自民党の山田太郎参議院議員は「JavaScriptはそういうものだ、ということを認めなければいけない。僕はウェブ技術時代にこういうものは当たり前だと思っているし、もっと言いえば、首相官邸のサイトにも法務省のサイトもJavaScriptを使っているし、注意書きもない。逆にオーストラリアのユニセフが同様の仕組みで寄付金を集めようという計画をしたこともある。場合によっては変な広告を見せられるよりも、よほど社会的であるという見方もできる。そういったことも含めてフェアに議論されないといけない」と指摘する。
「私は立法府にいるので、立場上は司法の判断については評価しにくい。ただ、解釈はできる。この条文は本来、“ウイルス罪”のために作ったはずだが、法益には国家的法益、社会的法益、個人的法益のうち、あくまでも個人的法益、つまり個人の財産を守ることについて考えていれば、こんなことにはならなかったし、もっと分かりやすく納得のできる判決になったかもしれない。経済産業省もウイルスについて“意図的に何らかの被害を及ぼす”ものと定義している。一方、今回の問題は被害者がいないが、秩序を乱すもの、社会的法益の問題として考えられている。しかし、これは怖い。コインハイブのような仕組みを許しておいたら社会がおかしくなるということだけで捜査が始まり、起訴もできてしまう。168条が解釈を不安定にしている法律であるのは間違いないし、本当の意味でウイルス罪に資するよう、検討して変えていかないといけない課題だ」。
モロさんの捜査では、10時間におよび家宅捜索が行われ、事件のディテールを理解しているとは思えない警察官に「あなたのやったことは法律から外れている」と繰り返されただけだったともいう。番組には「勝手にやられるのは嫌だけど、“広告よりマシ”はマジでそう思う」「技術の試行錯誤ができるようにしないとダメ。そもそもGAFAに負けそうと言ってる時点で恥ずかしい」「GAFA規制とかネガティブ策ばかり頑張ってないで、どうやったら勝てるのか考えたい」などのコメントが寄せられた。
山田議員は「とにかく日本はデジタルに関する法整備が遅れている。Winny事件で逮捕された金子勇さんのケースがまさにそうだった。金子さんのpeer to peer技術の研究は当時、最先端で画期的なもので、ブロックチェーンの始まりだったかもしれないものだったが、潰された。また、検索エンジンについても、日本には“オプトイン・オプトアウト”という著作権の問題があり、許可を取らないとデータが取れないという仕組みになっていたため、検索エンジンがデータを抜いた瞬間に著作権法違反だれてしまい、潰されてしまった。AIや人工知能でネットからデータを掴むのにも、法改正がなければ違法だった。決済に関しても、今や領収書、請求書にハンコを押しているのは日本だけだ。でも、法律に“ハンコを押さなければいけない”と書いてあったりするので進まない。デジタル社会になって価値観や考え方が変わってしまった中で、法律や振る舞いは立法もそうだし行政も司法も後追いで整備していくのが実際なので、日本だけが遅れていく」と危機感を訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:コインハイブ逆転有罪はIT発展を阻害?
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