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 東海テレビが2018年秋に名古屋地区で放送、大きな話題を呼んだドキュメンタリー番組『さよならテレビ』。同社報道部を長期にわたり撮影、情報番組のアナウンサー、契約社員のベテラン記者、そして派遣社員の新人記者の3人を軸に、ネット上では“マスゴミ”と呼ばれ、視聴率競争や働き方改革など、番組制作の現場が抱える様々な矛盾を映し出した作品だ。

 今、その映画版が各地で公開され、再び注目を集めている。ポレポレ東中野(東京・中野)の大槻貴宏代表は「まず全ての回が満席というのがすごい。そして、出てくる時のお客さんたちが、何か喋りたそうな顔をしている。そういう映画だというのが面白いところだ」と話す。

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 監督を務めたのは、自らも社員で報道部員の圡方宏史氏。「良くも悪くも局がお墨付きを与えているわけではないし、ある程度の年齢よりも上の人は怒っているが、ローカル局の現場で起きていることを1年7カ月取材して、そこから見えてきた象徴的なテレビの現状を映しただけだ。それでも社内では“アンタッチャブル”というか、なかったことになっている感はある」と苦笑する。

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 「いまのテレビは、もう解決できないくらいに八方塞がりだ。働き方改革も問題になっているし、スポンサーや視聴者、会社の内部・上層部に忖度していることも問題だ。ネットにもやられている。そして、視聴者もそのことをすでに知っているが、テレビ自身は今まで出してこなかった。そもそも報道やメディアというものは、問題があるところを視聴者の代わりに見に行き、お伝えするのが仕事なのに、テレビ局のドキュメンタリーが無いのは変だと思った。そこにプロデューサーが“東海テレビはドキュメンタリーのテーマにタブーはない”と言ってくれたので作った」。

■「果たして優秀な局員がどれだけいるかだろうか」

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 作品について、NHK、フジテレビを経て、現在は動画制作会社「Hariver」代表を務める張江泰之氏は「(テレビ番組版を)フジテレビにいた時に見て衝撃を受けた。東海テレビはよくこれを作らせたと思う。今のテレビが抱える問題を的確に伝えることができていたという意味においては、世に問うたという意味ではすばらしいことだと思った。ただ、年配のテレビマンからは相当怒られたのではないか(笑)」とコメント。

 「今のテレビは打たれ弱いし、僕がいたテレビ局もそうだが、忖度や危機管理をどうすればいいかという話ばかりで、何をやりたいのか分からなくなっている。そして、今、果たして本当にテレビをやりたいと思って入ってくる優秀な社員がどれだけいるかだろうか。あえていうが志を持っている優秀な社員は少ないと思うし、ネットに流れてしまっていると思う」。

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 一方、元日本テレビ記者でジャーナリスト・キャスターの岸田雪子氏は「“こんなシーンを見せていいのか”とハラハラする場面がいくつもあった。ただ、テレビが批判を受ける視聴率至上主義や、権力におもねり弱者を切り捨てているのではないかといった点について検証するというよりは、その方向性に合ったシーンが続くなという印象もあった。“これが今のテレビだ”と言われると、それはちょっと違うんじゃないのか、という違和感もあった」とした。

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 また、ふかわりょうは「“最高”の一言だし、東海テレビがこれを放送したことにもクールさを感じた。ただ、もはや“テレビってこんな作り方してたの?”と驚くような人はそう居ないだろうし、だからこそ、“そもそもテレビってこんなもんだぜ”っていうメッセージなのだろうと思った。そして、私はテレビの中に入りたいと憧れてきた“テレビ大好き人間”。その立場からすると、弱っているテレビをコテンパンにしてやりたいという人たちに養分を与えてしまうのではないかと危惧する。すでにこれだけ弱っているのに、さらに弱みを見せる必要あったのだろうか」とコメントした。

 テレビ朝日平石直之アナウンサーは「テレビの抱える問題点やジレンマをあぶり出すことには大いに成功している。ただし、圡方さんがおっしゃるように解決策は一切ない。自分で考えろということなんだと思う。ただ、この映画を見て、東海テレビで働きたいと思う人がどのぐらいいるだろうかと、少し心配になった。もう少し、愛が欲しかった」と語った。

■“何が見てもらえるかより、何を見せたいか”

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 「自分たちの思惑で編集、切り出し、都合いいニュース作り」「事件、事故の被害者の心情を無視した取材」「演出という名のやらせ」「人のアラを探して糾弾するのに、自分たちのミスは伝えない」「芸能人の恋愛、不倫、スキャンダル。本当にどうでもいい」など、テレビにぶつけられる様々な批判。

 ただ、平石アナが指摘する通り、作品では、こうした問題について提案めいたものは描かれていない。圡方監督も、「“ではどうしたらいいか”はセットにはなっていない」と話す。では、制作の過程で、突破口になりそうなものは見えてきたのだろうか。

 圡方氏は「弱さを認め、出した方がいいと思った。テレビの人たちは自分たちが正しく、強くあり続けないといけないという意識が強過ぎる。実際には普通の人なのでミスもするし、しょうもない部分だってある。それを隠して、みんな賢いふりをする。しかし、見ている人たちにはバレている。そして視聴率が全てになり、誰にも嫌われないようなもの、“あなたたちが見たいのはこれでしょ”というものを流しているが、大多数に向けた最大公約数的なものではチキンレースを続けるしかなくない。そうではなく、オンデマンドになっていく時代、番組にファンが付いて、見たいと思ってもらわないといけない」と指摘。

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 「尖った番組は認識されるまで時間がかかるが、すぐに結果を出さないといけない。しかし、“何が見てもらえるかより、何を見せたいか”だ。YouTuberの映像はプロから見れば編集が無茶苦茶だったりするが、やりたいことが表現されているという熱がある。実際、そういう主張のあるテレビ番組はジャンルを問わず視聴者に受け入れられていると思う。報道についても、視聴率のためにグルメを入れたりしている。しかし、ニュースとは何なのかということを視聴者が問う時代が来る気がしているし、情報番組やワイドショーのようなことをやっていても、それらは最終的に求められなくなるのではないか、やはり原点に返って、現場に行くという根っこの部分をちゃんとやった方がいい」との考えを示した。

■経営者の外部登用、社員のフリーランス化を

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 圡方氏の意見を受け、張江氏は「経営者の外部登用」「リスクと忖度なしの企画開発を」「社員のフリーランス化と世代交代」と提言。「テレビの人間が経営するのではなく、外から招いた経営者とぶつかり合いながら進んでいくことが大事なことではないか。そして、リスクや上への忖度は無視して、俺たちがやりたいことはこれなんだということを考え、そこから削ぎ落としていくことが必要だ。また、テレビ局の社員は色んな意味で恵まれている。お給料の面でも恵まれている。そうであれば、社内の競争原理を働かせるためにも全員をフリーランスにする。そしてテレビ局の人たちは年を取りすぎているし、ごますりばかりが偉くなっていく。年寄りが作っているのだから、若者が見ないのは当たり前だ。もっと若い力を信じて権限移譲し、企画を通していく。それぐらいの懐の深さというのは必要だと思う」。

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 岸田氏は「信頼される報道で、生命を守る」と提言。「バラエティなど制作部門がやっていることと、YouTuberの皆さんの工夫の差異がなくなってくることは事実だと思う。一方、圡方さんが描かれた報道の使命は変わらずに残っていくと思う。新型コロナウイルスの最新情報など、正確な情報を得る場合にテレビの果たす役割は何も変わらずに残ると思う。とくに災害報道はテレビに残された大事な使命で、これは気概を持って今もやっていると思う。その上で、報道は“ここまでしか分かっていない”と言うことが大事。私は湾岸戦争の報道がおかしい、アメリカの情報の垂れ流しになっていないかと学生時代に疑問を感じテレビ局に入ったが、“アメリカから提供された映像しか流せるものはない。なぜならイラクの現場に行けないからだ”ということが言わず、全て知っているかのように言うと批判を浴びると思う」と話した。

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 ふかわは「はるばるテレビの前に見に来てくれたくらいの気持ちでいなければならない。そうでないから、CMまたぎをしたり、大げさな表現をしたりと、不誠実な対応を取ってしまう」と注文をつけた。

 最後に平石アナが「テレビ批判は簡単だ。個の力がもてはやされる時代だし、私自身も個の力を磨く努力は続ける。一方で、逆張りしたいとも思う。つまり組織でしかできないこと、チームでしかできないことがはずだし、この『AbemaPrime』でしかできないことをやりたい。そこに価値があると思う。圡方さんの問題提起がものすごく刺さっているので、それを胸に頑張らないといけない」と話すと、圡方氏は「勝手にテレビが放り出しているだけで、テレビにしかできないことはあると思う。その点、この番組は熱くていいなと思った。テレビ的ではないと思った(笑)」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:「さよならテレビ」監督と考える報道の未来

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