プロレスリング・ノアのGHCヘビー級王者、潮崎豪のファイトスタイルは、いわば“直球勝負”だ。誰が相手でも小細工なし。かつて付き人を務めた小橋建太譲りのチョップとラリアットでなぎ倒すような闘いである。
とりわけチョップは試合のベースをなす武器。大技ではないが、相手の胸板に食い込むような打撃は会場に“バチーン!”という鋭い音を響かせる。そのチョップの音自体、潮崎の試合の大きな魅力と言っていい。対戦相手は試合後、ほぼ確実にアザができている。内出血したり、皮膚が裂けることもあるのがチョップという基本技の恐ろしさであり、その最高の使い手の一人が潮崎なのだ。
2月16日の後楽園ホール大会、潮崎はメインイベントに出場した。新世代のエース・清宮海斗と組み、杉浦貴、藤田和之組との対戦である。杉浦と清宮は2.24名古屋大会でナショナル王座をかけて対戦。潮崎は3.8横浜文化体育館の防衛戦で藤田をチャレンジャーに指名した。つまりダブル前哨戦だ。
この試合でも、やはり潮崎のチョップは猛威を振るった。写真を見ると藤田の胸の肉が波打ち、チョップの衝撃が骨にまで届く勢い。藤田は総合格闘技でも活躍した選手だが、そういう相手に対してもシンプルな“プロレス技”で向かっていくあたりが潮崎らしさだと言えるだろう。
ノア参戦当初、藤田は潮崎のチョップを露骨に嫌がっていた。思わず「痛え!」と口にしてしまったことさえある。それだけ強烈な技なのだが、しかしタイトルマッチで勝つには潮崎のチョップとラリアットを克服する必要がある。
今回の前哨戦、藤田は潮崎のチョップを受け、それに耐えながら腕をつかんで頭突きで反撃していく場面も。チョップに対して張り手やエルボーで反撃し、激しい打ち合いも見せた。場外戦では本部席にあったチャンピオンベルトで潮崎を殴りつけている。
最後はスリーパーで潮崎を絞め落とし、前哨戦をものにした藤田。勝利という結果はもちろんだが、チョップを克服しつつあるのもポイントだ。試合後、杉浦は藤田とのダブル王者実現をファンにアピールした。どちらも今年50歳。しかし若い選手にまったく引けを取らないほどパワフルでエネルギッシュだ。
王者・潮崎は、ここまでの闘いで“チョップ慣れ”してきた藤田をあらためて攻略する必要が出てきた。別な技でダメージを与えるか、それともあくまでチョップで打ち抜くか。潮崎の“豪腕・豪打”、その真価を発揮できるかどうかが、初防衛戦のカギになる。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア