2月16日のプロレスリング・ノア後楽園ホール大会におけるベストバウトは、中嶋勝彦vs鈴木秀樹のシングルマッチ、30分フルタイムドローの一戦だった。大会ベストどころか今年の年間ベストバウト候補にもなってくるのではないか。それくらいの闘いだ。
ノア所属の中嶋はプロレス界随一の蹴りの使い手。鈴木はフリーとして昨年からノアに参戦し、中嶋のタッグパートナーである潮崎豪とも激闘を展開した。
潮崎vs鈴木は“他流試合”的な緊張感のある試合だった。グラウンドにも秀でた“ビル・ロビンソンの愛弟子”鈴木に対し、潮崎はチョップやラリアットの直球勝負。スタイルの違いが迫力につながった。
一方、中嶋vs鈴木にも抜群の緊張感があった。それは、中嶋が鈴木のフィールドに踏み込むことで生まれたものだったように思える。相手と組むところから妥協なし。簡単には“技のやり取り”にならないのだ。それは鈴木のスタイルと言っていい。その中で、中嶋は組み手争いをしながらローキックを蹴ってく。
組み合っても中嶋は一歩も引かない。この試合を“中嶋の蹴りvs鈴木の寝技”と予想したファンは多かったはずだが、中嶋はヘッドシザースで長時間絞め上げ、鈴木のスタミナを奪いにかかった。「長時間絞め上げる」ことができたのは、つまり鈴木の巧みな切り返しを封じたということだ。
そこから場外戦、そして打撃戦へ。今度は鈴木の地力も出た。その出自から“テクニシャン”のイメージが強い鈴木だが、めっぽう気の強い“ケンカ師”でもある。端的に言えば“技術を持つ人間のケンカ”が鈴木の闘いの魅力だ。相手を一方的に叩きのめすような試合も得意とするところ。
場外戦で渡り合い、リングに戻ると中嶋の蹴りに鋭角なエルボーを返す。横から振り抜くヒジだけでなく、アッパーカット式も強烈だった。ラスト数分まで大技の攻防はなし。両者はシンプルな技で観客の目をクギ付けにした。
最後は中島のバーティカル・スパイク、鈴木のダブルアーム・スープレックスと必殺技をお互いカウント2で返し合い、30分時間切れ。本人も言っていたが、鈴木は潮崎、中嶋とノアのトップ選手2人と「合計60分」闘い抜いたわけだ。あらためて鈴木の力量が伝わってくる試合だったし、鈴木秀樹というノアにとっての“異物”と渡り合うことで中嶋の凄味も見えた。グラウンドも含め、中嶋勝彦は鈴木秀樹と堂々とケンカをしてみせるレスラーなのだ。
試合後の鈴木は、中嶋について「(自分と)同じ匂いを感じますね」と語っている。曰く「性格悪いでしょ?」。またツームストーン・パイルドライバーやドラゴンスープレックス、ダブルアーム・スープレックスを放った際に、中嶋が「ちょっと(ポイントを)外してました」とも。単に打たれ強いのではなく、攻撃を受けながらダメージを軽減する技術があるということだ。
全日本プロレス同様に、ノアの強みは“受身”だと言われる。生え抜きではない中嶋だが、ノアらしさで鈴木に対抗したとも言えるだろう。実は“ケンカ強さ”もノアの特徴なのだと言う選手もいる。
中島vs鈴木は激闘であり、どちらの魅力も堪能できる試合であり、さらに言えば“ノアの実力”、その奥深さに興味がわいてくるものでもあった。記憶に残る試合であり、思考を誘う試合だ。そんな意味でもベストバウトと呼ぶにふさわしい。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア