クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が停泊している横浜港では、新型コロナウイルスの検査で陰性と診断された乗客の下船が続いている。そんな中、感染が確認されて搬送、重症になっていた日本人の80代男女2人が亡くなった。乗船者で死亡が確認されたのは初めてのことだ。
他方、北は北海道、南は九州・福岡市で新たな感染者が確認されるなど、国内での感染が拡大している。しかし、相次いで開かれる自治体の記者会見では、いずれもプライバシー保護の観点から、感染者の移動ルートなどの情報が開示されることはほとんど無いため、ネット上には「情報公開してくれないと防止もできない」「本気で感染拡大を止める気があるのか」という意見もある。
感染源となった中国に目を向けると、最新の監視技術や携帯電話の位置情報などによるビッグデータをフル活用、感染者や濃厚接触者などを特定しようとする動きが進んでいるという。中でも武漢市は感染者に関する情報を検索できるサービスを提供、いつ、どこの、どんな店に行ったのか、交通手段はなんだったのか…といった情報を調べることができる。また、杭州市ではネット通販大手のアリババが開発した「健康バーコード」を運用。市民は緑、黄色、赤にそれぞれ色分けされ、読み取り機が置かれた公共の場所では色に応じて立ち入りが制限されるという。
さらにウォール・ストリート・ジャーナルによれば、韓国政府は感染が確認された人の移動経路などの詳細をウェブに公開している。感染者情報の公表の判断が各自治体によってバラバラになっている日本。優先されるべきは、プライバシーなのか、感染防止なのか。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「日本は民主主義国家である以上、あまり国民の監視はせず、個人情報についてもプライバシーをちゃんと守るという原則に基づいて運用している。例えば中国からの入国拒否について、法務省はエリアを広げることに抵抗した。やはり個人の権利を制限するということについては慎重に議論した方がいいし、パニックになって何でもプライバシーを明かせというのは危ない」と指摘する。
また、慶應義塾大学の若新雄純・特任准教授は「どうしてそんなに感染者の位置情報を公開して欲しいのだろうか。僕はそんなことはどうでもいい。むしろ治った人がどういう経過で、どういう治療を受けたかという情報、かかった場合どうなるのか、どういう人にうつしてはいけないのかといった情報を求めるべきではないか。どこで感染者が出たとか、都道府県の地図を見せて“ここはまだ感染者がいない”と言うことではなく、このウイルスとどう向き合っていくかという情報を提供すべきだと思う」と訴えた。
感染症専門医でKARADA内科クリニック五反田院長の佐藤昭裕氏は「実は日本でも新型コロナウイルスよりも感染力が強く、空気感染もする麻疹の時に、どこの県のどこの市に在住の何歳男性で、どこの商業施設に何月何日の何時から何時の間に行った、というような情報が公開された。このような個人の行動の履歴をさらすということは新しいことではない。ただ、感染源が追える段階であれば、公表によって、少し早めの受診ができるかもしれないということであって、市中感染が始まってしまえば意味がない」とコメント。
防災アドバイザーの高荷智也氏は「情報を出す場合、それを受け取った人が命を守るための行動がとれるのか、ということもセットでないといけない。今回で言えば、“同じ電車に乗っていた”“同じお店にいた”“私も検査を受けたい”という人のうち、何人がその検査を受けられるのか。その体制がきちんと整っていなければ、情報を出しても意味がない。その検査能力も問題になっている今、完全な情報公開にはあまり意味がない状況になっていると思う」とした。
▶映像:どこまで公表すべきなのか?今後の感染の見通しは?
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