慣れない超早指し戦と共に戦う仲間には、経験値を求めるようだ。棋士が棋士を選ぶドラフト会議でチームが結成されることになった将棋の「第3回AbemaTVトーナメント」。チームリーダーの一人、稲葉陽八段(31)は今回が初参加だ。持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算という独特なルールには、各棋士が口を揃えて実戦での経験が必要だという。稲葉八段も、自ら指名する棋士においては「経験が大きいので、1回目、2回目に出場している棋士の優先順位が高くなる可能性があります」と構想を明かした。
個人戦で行われた第1回、第2回大会は、いずれも藤井聡太七段(17)が優勝。若手有利とされる早指し戦の中でも、さらに特殊なルールだが、決断力・判断力に秀でた棋士が、年齢問わず上位進出を果たした結果が出ている。稲葉八段からすれば、初参加となった今回「出たいなと思っていたんですけど、まさかこういう団体戦になるとは想像もしていなくて驚きました」と面食らった印象だ。
過去の大会の様子を見て、実際「遊びで数局指してみた」が、感触はつかめなかった。「まだ全然わからない。本番にむけてまた練習しないと」と、順位戦A級のトップ棋士でもすぐに対応できるものでもないようだ。一番の違いは持ち時間が「増える」こと。他の対局が持ち時間が減る一方の中、このルールでは自らどんどん指していけば、難所のために時間を蓄えることができる。「増えていくルールの中で、時間がなくなった時にどういう追い込まれ方をするのか。普段と全然違いますね」と、時間のプレッシャーがまるで違うようだ。
その状況でチームを構成するとなれば、やはり仲間には「経験者」を選ぶのが定跡、手筋かもしれない。「持ち時間が独特なので、選ぶ棋士が変わってくると思いますし、適正もありそう。経験が大きいので1回目、2回目に出場している棋士の優先順位が高くなる可能性があります」と明かした。個人連覇の藤井七段をはじめ、1巡目で人気となる棋士は絞られてくるが「指名がかぶりすぎるのもどうかなと。現状、まだ迷っています」と、初手については時間をかけて熟考することもある。
関西所属の稲葉八段。今後、チームで作戦を練ったり、練習会を開いたりすることを考えた場合、同じ関西勢を選ぶのか、思い切って関東勢も選ぶのか。このあたりも注目ポイントの一つ。「東京の人だとあまりわからない棋士も多いですし、新たな交流ができるかもしれないですね。違った一面が見られるかもしれないですね」と興味はありそうだ。
◆第3回AbemaTVトーナメント
第1回、第2回は個人戦として開催。羽生善治九段の着想から生まれた持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算されるフィッシャールールは、チェスなどで用いられるもの。1回の対戦は三番勝負。過去2度の大会は、いずれも藤井聡太七段が優勝した。第3回からはドラフトを経て構成される3人1組の12チームが、3チームずつ4つのリーグに分かれて総当たり戦を実施。1対局につき1勝を1ポイント、1敗を-1ポイントとし、トータルポイントの多い上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出する。優勝チームには賞金1000万円が贈られる。
◆出場チーム&リーダー
豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位、佐藤康光九段 三浦弘行九段、久保利明九段、佐藤天彦九段、広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、稲葉陽八段、Abemaドリームチーム(羽生善治九段)