タイトル通算23期を誇る名棋士であっても、経験したことがない戦いがあった。団体戦だ。アマチュアでは「職団戦」を筆頭に団体戦の大会があるが、プロの世界には仲間と手を取り、肩を組んで戦うものは存在しなかった。渡辺明三冠(35)が「アマチュアからも含めて初めて」と言って臨むのが「第3回AbemaTVトーナメント」。自分自身で仲間を2人選び、3人チームを作る初の試みに興味津々だ。
過去2回は超早指しの個人戦として行われた同棋戦。渡辺三冠は、第2回大会に出場した。「1回経験できたので、今回は前回より不安なく臨めます。前回以上の成績を目指したいと思っています」と、持ち時間5分・1手指すごとに5秒加算という独特なルールに対する経験値があることで余裕がある。ところが今回は団体戦。こちらについては、経験値ゼロだ。「自分がもし負けても、仲間が勝ってくれればいいと思う反面、自分が勝たないといけない。普段は完全に個人競技なので」と、感じたことのないものを想像した。プロ棋士の仲間と言えば、所属するフットサル部や所司一門あたりがイメージしやすいが、渡辺三冠がそのまま採用するのか、新たなチームを結成しに行くのか、ヒントは少ない。
孤高の戦士である棋士たちが、仲間のために考え、喜んだり悩んだりする。「プロ棋士は、応援するということがなかなかないので。非常におもしろい企画です」と微笑んだ。一時の不振から完全復活を遂げ、今や将棋界の頂点に並び立つ渡辺三冠なら、きっとこの新企画にもうまく対応する。
◆第3回AbemaTVトーナメント
第1回、第2回は個人戦として開催。羽生善治九段の着想から生まれた持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算されるフィッシャールールは、チェスなどで用いられるもの。1回の対戦は三番勝負。過去2度の大会は、いずれも藤井聡太七段が優勝した。第3回からはドラフトを経て構成される3人1組の12チームが、3チームずつ4つのリーグに分かれて総当たり戦を実施。1対局につき1勝を1ポイント、1敗を-1ポイントとし、トータルポイントの多い上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出する。優勝チームには賞金1000万円が贈られる。
◆出場チーム&リーダー
豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位、佐藤康光九段 三浦弘行九段、久保利明九段、佐藤天彦九段、広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、稲葉陽八段、Abemaドリームチーム(羽生善治九段)