「官僚組織は“想定外の想定”ができない」公衆衛生の第一人者が指摘する、CDCなき日本の課題
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 新型コロナウイルスの感染拡大について、WHOが「パンデミック」との認識を示す中、日本では14日、改正新型インフルエンザ対策特別措置法が施行(2年間の時限措置)された。

 これにより、国民生活や経済に影響を及ぼすおそれがある場合、内閣総理大臣が「緊急事態」を宣言することが可能になり、各都道府県知事は外出の自粛や休校、イベント中止要請、まん延防止措置、医療体制確保措置、国民生活安定措置といった様々な措置を講じることができる。ただ、安倍総理は14日夕方の会見で「現時点で緊急事態を宣言する状況ではない」としている。

 「国境がない感染症は日本だけで対応できるものではないし、厚生労働省だけでなく、全ての関係機関が一致団結して対応しなければならない。ある意味では安全保障的な観点が必要だ。もちろん法律も大事だが、危機対応においては最悪を想定してそこから逆算し、フェーズに応じた臨機応変な対応を取ること、国民に対し、今どういう状況にあって、何を目的としてこれをやるのか、ということを明確に示していくコミュニケーションが大事だ」。

 そう話すのは世界各国の保健政策の立案・実施支援を行ってきたキングス・カレッジ・ロンドン教授の渋谷健司氏だ。厚生労働省の会議で座長・委員、大臣のアドバイザーなどを歴任。WHOで政策チーフを務めた経験も持つ、公衆衛生・感染症対策の第一人者だ。

 13日のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した渋谷氏は「後出しで言うのは申し訳ないが、やはり日本政府の発信の仕方については唐突感が否めない。英国ではボリス・ジョンソン首相が記者会見を3回しているが、今どういうフェーズにあるのか、最悪の事態になると何が起こるのかということを話し、そこから先は両脇の政府主席医務官と政府主席科学顧問に話してもらっている。例えば12日には感染が広がっていることを認め、ある意味で封じ込めは諦めるとした。それでも不利益の方が大きいと判断し、学校の閉鎖はしないと表明した。想定問答もないので、非常に厳しい質問が何度も飛ぶ。もちろん事態は刻々と変わるし、施策が必ず当たるかどうかは別として、専門家の意見を非常によく聞いて、何を何のためにやるのかということについて丁寧に説明し、明確なメッセージを打ち出すことが非常に安心感を与えている気がする。また、ジョンソン首相が自らテレビで“ハッピーバースデーの歌を2回歌う間にきちんと手を洗いましょう”というキャンペーンをしている」と説明。

 また、これまでの施策についても、「福島の事故からちょうど9年が経ったが、国会事故調がしっかりとした検証を行ったと思う。しかし、その提言があまり活かされていないという事実がある。今回のダイヤモンド・プリンセス号での初期対応についても、事後検証をして政策に活かすというプロセスを立てない限り、“何かあったけど、皆よくやったよね”で終わってしまう可能性が高い」と指摘した。

「官僚組織は“想定外の想定”ができない」公衆衛生の第一人者が指摘する、CDCなき日本の課題
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 そして、渋谷氏がかねてから必要性を訴えてきたのが、日本版CDC(疾病対策センター)だ。CDCとは、疾病発生に際しては直ちに現地調査等を行い、政策決定に直結する情報を提供、病原の特定・疾病予防や管理・健康増進の教育活動なども実施する感染症対応などの中核を担う組織で、すでにアメリカや中国では存在しており、今回も感染症対策の司令塔を担っている。

 他方、日本では官邸に「対策本部」「専門家会議」があり、厚生労働省、内閣官房、国立感染症研究所、各省庁など様々な組織が関与しており、実質的な司令塔が不在なのではないかということが指摘されてきた。

 「日本の場合、官邸の中には内閣危機管理監がいるし、エボラの後には感染症に対応する省庁横断的な機能もできた。厚労省の中にもそうした部署があるし、感染症研究所もある。しかし、日本の役所、官僚組織は“想定内”の調整においては世界最高級だと思うが、コンティンジェンシー(contingency)、つまり“想定外”を想定してシナリオを立て、状況が変わればすぐにスイッチするということは難しい。それができる組織は、端的に言えば軍隊的な、自己完結した組織しかない。部隊がすぐに現地に行って調査して帰ってくるなど、ロジスティクスがある。そして政府が言ったことを後追いするのではなく、自分たちで判断し、それを政府に提言できるような独立したガバナンスがあること。CDCがやっていることもそうだ。日本でも、“日本版CDC”の話がアウトブレイクの度に出ては“国立感染症研究所があるじゃないか”と“箱”の話になって消えて行った。しかし、人事と独立したガバナンスの問題だ。研究所は基礎研究者が職員の大半を占めているが、CDCはインテリジェンス機能を担うサーベイランスチームが非常に大きい」。

 元経産官僚の宇佐美典也氏は「日本の官庁は松・竹・梅、あるいはベスト・ワースト・ライクリーケースとシナリオをいくつか立て、それをベースに政策を作っていくことが苦手だ。また、“昨日の延長の明日”しか見ないので、現実に起きた問題に対応するのが基本。しかし安全保障というのは、戦争が起きるかもしれない、感染症が起きるかもしれないという想定の下、普段から演習をしておくことが対策だ。それが日本では、“戦争があるかもしれないという”前提で議論をする時点で政治的に紛糾してしまう。また、官僚としても、そういうことを言うと国会が炎上するから言っちゃダメということになっている。国民保護法という法律にも、武力攻撃などに伴う感染症が起きた場合について、頑張るというようなことが少し書いてあるだけだ。そういう議論ができる政治的土壌を作らなければ、炎上を恐れて政治家も消極的になってしまう。シナリオベースで政策を考えようという文化が必要だ」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:「日本のコロナ封じ込めは難しい」感染症対策の第一人者・渋谷健司氏が解説

「日本のコロナ封じ込めは難しい」感染症対策の第一人者・渋谷健司氏が解説
「日本のコロナ封じ込めは難しい」感染症対策の第一人者・渋谷健司氏が解説
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