事故物件、誰かが一度住めば告知しなくてもいい? 知っておきたい不動産の“心理的瑕疵”
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 家を買う人、借りる人が住むことに抵抗を感じる要素を指す「心理的瑕疵」。

 自殺・殺人、火災や事故による死亡があった物件は“事故物件”と呼ばれるが、それ以外にも、周辺に“嫌悪施設”(指定暴力団の組事務、葬儀場・火葬場・墓場、清掃工場・下水処理場・産業廃棄物処理場、遊戯施設・風俗営業店、原子力発電所等・ガスタンク、刑務所など)が存在する場合は「告知事項あり」などと記載され、「心理的瑕疵物件」と呼ばれている。

 ただ、実は心理的瑕疵については、何をどこまで伝えるべきかという明確な決まりがないため、告知の内容や仕方は不動産業者によってバラバラだという。新生活を前に知っておきたい「心理的瑕疵」のリアルとは。

■「誰かが一度住めば告知しなくてもいいというわけではない」

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 これまで複数の事故物件に住んできた、お笑い芸人の松原タニシが現在住む大阪の物件も、心理的瑕疵の告知があったという。「“ここは何があった部屋か”と聞いたら、“人が亡くなっている”とだけ言われた。“後は内覧が終わって、契約をすると確約をもらえればお答えする”と。即決で契約すると、“前の住人がトイレで亡くなっていた”と教えてくれた」。

 今もトイレの異臭が気になるという松原。近所の住民によると、松原が入居する数カ月前、建物中にすごい臭いが充満したたことがあったのだという。宅地建物取引士の株式会社ファンハウスの國井義博代表取締役は「不動産業者としては“やっぱり契約するのはやめた”と言われるのが嫌で、どこまで腐乱していたかといった、必要以上のことまで伝える必要はないんじゃないかと判断したのだろう」と推測する。

 こうした点について、明海大学不動産学部の中村喜久教授は「宅建業法47条では、重要事項説明とは別に取引において重大判断になるものについては言わなくてはいけないと定められていて、買う人、借りる人が“私はこういうものが嫌だ”と伝えておいたにも関わらず言わなかった場合、説明義務違反になる。例えば、過去にその部屋が特殊風俗のお店として使われていたことを知らずにマンションを買った方が後で驚いて損害賠償請求をしたことがあった」と話す。

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 一方、「判例では、“通常一般人において住み心地の良さを欠くもの”が心理的瑕疵に該当するとされていて、物件の価値を下落させることになるが、どうしても個別性が強いので、ビシッとした線を引くことが難しい。人によって感じ方が違うということもあるし、同じ自殺でも、首吊りと、睡眠薬を飲んで2週間後に病院で死んだというケースでは部屋の状態が全く違うので、なかなか一括りにはできない」と説明した。

 例えば、「事件・事故後に誰かが住んでいれば、その次の借り主には告知しなくてもよい」、ということがよく言われている。しかし中村教授によれば、これも厳密には正しくないのだという。「そのような判例もあるが、都市部のワンルームで、近所付き合いが希薄だったという条件が付いている。つまり周りの住人がどれぐらい知っているのかということなどとも関係してくるということだ。また、前の住人がごく短期間しか住んでいなかった場合はどう感じるだろうか。仮に一度住めば良いという基準を作ってしまえば、わざと従業員を短く住まわせてしまうような不動産業者も出てくるかもしれない」。

 あるいは隣室で殺人事件が起きたような物件については、裁判所が告知の必要なしとの判断を示すことが多いため、不動産業者があえて説明しないことも多いというが、中村教授はこれについても「やはり個別性があって、非常に残虐な事件が起きた場合でも言わなくていいかというと、それは別問題だろう」と指摘した。

■言いたくない大家、知らない不動産業者、という背景も

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 「一応、大島てるで調べた。大丈夫かなって」「みんな調べてるよね」。若者たちが不動産選びの際の情報源として信頼を寄せるのが、事故物件などをマッピングした“事故物件公示サイト”「大島てる」だ。掲載されている国内外の物件数は現在、4万件に上る。既に建物そのものが建て替わった場合でも、過去の事件や心理的瑕疵についての掲載を続けている。

 管理人の大島てる氏は「サイト開設から今年で満15年を迎えるが、立ち上げ当時は私自身が大家・地主サイドだった。大金を投じて新しく土地を買う、あるいは中古のビルを買う時には、やはり訳ありの物件は避けたいという思いがあった。それがそもそもの動機だ。これまで、死体遺棄事件があった物件のオーナーから、資産価値が下がってしまうから隠しておきたいのに、ということで訴えられたこともあった。しかし、もちろん裁判所が認めるはずはない。だからこそ今も表立って活動できている。大家さんたちも、全員がこのような情報公開に否定的というわけではない」と話す。

 「それでも大家さんが自分の物件の資産価値が下がることを恐れて、仲介する不動産業者に言っていない場合もある。だから借りる人・買う人・住む人に伝わらない。世間では不動産屋さんが悪いと思っている方が多いと思うが、どうしようもない場合もある。やはり大家さんがちゃんと真実を伝えてほしいというところだ」。

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 ただ、事故物件や心理的瑕疵物件は、やはり物件の所有者としては困る存在だ。場合によっては数年にもわたって予定通りの家賃収入が得られないということにもなる。

 「しばらくは空室、売買でも売れない期間が続く。もちろん亡くなった方の遺族などに対する損害賠償請求はできるが、払ってもらえるかどうかは分からないし、今年の4月からは、“連帯保証人はここまでしか払わなくていい”という極度額が決まることになっているし、泣いている大家さんは多い」(中村教授)。

 大島氏は「どのような形であれ、一歩前進と期待はしている。どのようなものであっても反対するつもりはないし、それでサイトが使命を終えたことになっても構わない。ただ、例えば“自殺があったら5年間は言いましょう”というよう具合に具体的な数値を出してしまったら、5年と1日経ってしまったらもう言わなくていいんだと誤解されてしまうだろう。あるいは早期発見されたものも含め、“孤独死は告知しなくてはならない”となれば、お年寄りに対する貸し渋りという副作用が起こるかもしれない。それでも今よりはましだと考えている」との考えを示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:"事故物件HP管理人"大島てる生出演 心理的瑕疵とは? 情報開示の境界線どこまで必要?

"事故物件HP管理人"大島てる生出演 心理的瑕疵とは? 情報開示の境界線どこまで必要?
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