感染症の専門家「1年の延期では厳しいのではないか」 東京オリンピック開催、リスクとのバランスをどう考える?
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 7月の開幕まで120日あまりに迫った東京オリンピック・パラリンピックの開催延期が現実味を帯びてきた。世界各国の競技団体などから延期を望む声も高まっており、IOCは今後4週間以内に延期するかどうかの結論を出すと表明している。

 安倍総理は 23日の参院予算委員会で「IOCの判断は私が申し上げた完全な形での実施という方針に沿うものであり、仮にそれが困難な場合にはアスリートの皆さんのことを第一に考え、延期の判断も行わざるを得ないと考えている」と述べており、今後の議論の焦点は、延期の場合、一体いつ実施するか、ということになりそうだ。

■「アスリートたちは混乱していると思う」

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 男子ビーチバレー代表として北京・ロンドンの2大会に出場した経験を持つ朝日健太郎参議院議員(自民党)は「日本時間の23日に大きく局面が変わった。22日のIOC臨時理事会で、そして23日の予算委員会で安倍総理が“延期”という言葉を初めて使った。これから世界中が反応していくのではないか」と話す。

 「収束の見通しがある程度立たなければ、数カ月の延期ではアスリートの健康、安心・安全にリスクが残る。一方で、4割以上の選手はこれから代表に決定していくということで、今がオリンピックレースの佳境だ。3カ月かけて減量する選手もいれば、オリンピックにピークを合わせるには半年~1年くらいかかると言われている。自分がオリンピックに出場することが決定したのは開会式の3週間前だったが、実は開会式から逆算しして1年くらい前から準備していた。今、世界中の内定したアスリート、内定を目指しているアスリートがゴールを見失い、混乱した状況だと思う。こうした心情も慮らなければならない。コロナの収束を基本軸にするのか、アスリート・ファーストを基本軸にするのか、その議論を深めていかなければ、世界的な合意はなかなか得られないと思う」。

 その上で朝日氏は「本当に延期ができるのか。2020年の開催に向け、会場の選定、資金・人材集めなどに6年間をかけてきた。そういったものを4週間で決められるのかと言えば、普通に考えて無理だと思う。ただ、現時点では中止はないということだ。それについてはIOCも明言しているし、日本政府もそれを了承している。オリンピック・パラリンピック競技大会そのものの意味や、様々な論点はあるが、感染症の専門家のご意見を参考にしながら、安心・安全な形でやり遂げるという意志を我々は共有している。そのことがある意味で新型コロナウイルスを世界が克服したというメッセージになるのではないか」と訴えた。

■競技の現場での感染対策をどうするのか、という問題も

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 厚生労働省の対策にも関わってきた和田耕治・国際医療福祉大学教授は、特に欧米での感染が拡大していて、これが収まるには年単位はかかると考えている。ある程度の人が感染し、集団免疫を持たない限り収まらないと考えると、1年の延期では厳しいのではないか」との見方を示す。

 「現場での感染対策をどうするのかということになると思うが、やはりボディ・コンタクトの多い柔道やレスリングなどの競技もあり、誰か1人でも感染した場合、対戦した選手をどうするのかといった議論が出てくる。また、安全性があり、効果も得られるワクチンが出てくればいいが、治療薬だけでは感染リスクが下げるわけではない。例えばオリンピック村の中で感染者が出た場合、誰が濃厚接触者なのかという話が始まり、公平性が保てなくなる可能性がある。そういったことも含めて対策ができなければ、オリンピックだけでなく、2年後のワールドカップについても議論が続く可能性がある」。

 また、国内の状況については「東京、愛知、大阪という都市圏を中心に、感染者が少しずつ増えてきている。今のところ、それらのクラスターと呼ばれる疫学的なリンクを追えてはいるが、ちょっとしたことで地域での流行が起きてしまうことは十分あり得るので、危機感をしっかりと持っていなければならない。特にイタリアでは“そんなことは起きない”と笑っていたが、数日後には実際に起きてしまったという話もある。幸いなことに、日本は今までぎりぎり持ちこたえているので、今のうちに医療体制や自粛をどうしていくかということをしっかりと議論していく必要があるが、あまり時間はないかもしれない」と指摘。

 「専門家会議からもイベントの開催については“慎重にお願いします”という表現をしているが、この“慎重に”というのがうまく伝わっておらず、解除されるのではないかと期待されていた方が実施しているのではないかという印象がある。だが、やはり日本でも流行が起き得るという危機感は高めていきたいと考えている。最近では少しずつ“長期戦”という言葉が使われるようになってきているが、社会活動をどこまで抑えれば流行を拡大させないで済むかということについては、まだちょっと読み切れていない。一方で感染が拡大してくると、いわゆる街を閉めるようなことをしないと収まらないということも分かってきている。生活圏の中でのイベントは少しずつやって頂き、日常を取り戻してもらうことも大事だ。ただ全国的なイベントはこの1年、2年は難しい」。

■大規模イベント自粛要請は補償とセットにすべき

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 幻冬舎・編集者の箕輪厚介氏は「アスリートファーストという言葉もあるし、4年かけて準備していることはすごく分かるが、優先順位で言えば、やはり人が死ぬかもしれないということを重視しなければならない。大変なことではあるが、全世界が受け入れなければならないことだと思う。マスコミは“選手の気持ち”などを報じると思うが、はっきり言えば、それは煽っているだけだ延期と中止、それぞれにビジネス、数字面や、どういったリスクがあるのかということを冷静に示して欲しい」とコメント。

 ノンフィクションライターの石戸諭氏は「感染症のリスクを抑えることを考えれば、当然オリンピックは延期だろうし、誰も街に出ないようにすれば、収まっていくとも思う。問題は、そのことによる経済的損失が新たなリスクになり、社会が死んでしまうかもしれないということだ。そのこととのバランスを調整するのは専門家会議ではなく、政治家の仕事だ。例えばK-1についても中止と補償がセットになっていれば、やらないという選択肢を取ることもできる。“自粛を要請する。判断はあなたたちでやれ。しかし補償はしない”という建て付けではおかしい。先日、西村担当大臣とお話をする機会があったが、経済を回すために6~7月に観光キャンペーンをし、旅行に補助金を出すという話が出ているらしい。しかし、そんなことをしている場合だろうか。また感染のピークがやってくるのではないか」と指摘していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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