東京オリンピック・パラリンピックが“来年夏までに開催する”ということに決定した。ただ、延期の原因となった新型コロナウイルスの感染拡大がそれまでに終息する見通しは立っておらず、会場の調整や費用の問題など、課題は山積している。
今回の延期決定について、AbemaTV『AbemaPrime』に出演した作家で元東京都知事の猪瀬直樹氏は「何とか着地したな、という感じだ。陸上競技はオリンピックの花形だが、来年の夏に世界陸上を控えている世界陸連のセバスチャン・コー会長が“延期してもいい”ときっかけを出してくれたことが大きかった。また、オリンピアードというのは4年間のうちの最初の1年でやるということで、2021年に食い込んでも、1年以内なら“東京2020”だとバッハ会長が条件を作ってくれた。それも大きいと思う。今の所、来年の5月、6月の可能性もあると思う」と話す。
ただ、東京大学大学院特任研究員の坂元晴香氏は「感染の状況を考えると、1年後ならいいのか、2年後ならいいのかというのは推測の域を出ないが、今のところ来年の夏までに新型コロナウイルスが収束するという見通しは全く立っていないと思う」と懸念を示す。「ワクチン開発にしても1~2年はかかるのと、他国から持ち込まれることを考えると開催国の日本だけで打っても仕方がない。医療制度が弱いアフリカの国々でも行き届かせるということを考えると、こちらも1年は厳しいかなとも思う」との見方を示した。
また、経済的な負担も課題の一つだ。オリンピック・パラリンピックの経費負担は全体としては1兆3500億円で、このうち組織委員会は6030億円(予備費270億円)、東京都は5970億円、国は1500億円の分担だと言われている。関西大学の宮本勝浩名誉教授による試算によると、延期にかかる費用は約4225億円だ。内訳は、会場・選手村の維持費が約225億円(5億・1施設平均維持費×45施設)、代表選手の再選考・強化等費が約3900億円(五輪300種目×10億・1種平均+パラ450種目×2億・1種平均)、広報等経費が約100億円となっている。
こうした負担増について猪瀬氏は「オリンピックを中止したら4兆円くらいの損失になるというが、1年延期であれば4000億円くらいの損失だ。コロナ対策で政府が30兆円くらい用意すると言っている。アメリカではトランプ氏が100兆円だ、200兆だと言っている。原因はコロナだから、この中から出すという考え方もあるあまり悲観的に考えなくてもいい」と指摘。「大事なのは、他の国と違って日本はホスト国、当事者であるということだ。その日本がパンデミックにならないよう、なんとか抑え込んでやってみせるという責任がある。結果的に来ることができないという国や人もあるかもしれないが、当事者国としては環境を整えてお迎えする、おもてなしをすることが重要だ。逆に言えば、日本の信用が高まるチャンスでもある」と話した。
その上で、改めてオリンピック招致、開催の意義について猪瀬氏は「オリンピック憲章にも書いてあることだが、招致の大きな理由の一つが、2020年までに国民・都民がスポーツに親しむことによって、健康寿命を伸ばそうということだ。今、平均寿命は男が81で女が86だが、健康寿命は男が72で女が75だ。つまり、10歳ぐらいの差があって、そこは横になっていたり、車椅子に乗っていたりする。高齢化社会で医療費は膨れ上がっており、43兆円に達している。だからスポーツに親しんでもらって健康寿命を延ばすことは、この医療費を抑制することにつながる。僕も招致が決定してから、毎月50km走り続けている。そしてもう一つは、インバウンドだ。北京やロンドンを見ていて、東京に決まれば、外国人観光客がどんどん来る事が予想できた。そうなればGDPはプラスになるし、観光産業、地方も豊かになる。こちらの目標はほぼ達成してきていると思う」と説明した。
他方、2021年に開催されることでも“メリット”もあるのだという。たとえばマラソン・競歩の会場となった札幌では、ボランティア募集など会場変更によるスケジュールに余裕ができる。また、トライアスロンなどの会場となっている東京・お台場周辺水域の水質改善のための時間的余裕が生まれる。そして、東日本大震災から10年となることで、改めて「復興五輪」としての意義を見直す契機にもなるだろう。
ジャーナリストの堀潤氏は「間に合わないかなといわれていた水質の改善、冷房の装置も期待できるし、様々な災害、気候変動や飢餓、紛争ある中、復興とは何なのかというコンセプト作り、そして最近ではすっかり言わなくなってしまった“レガシー”が何であるのか、そういったことももう1年かけて練り直してもいいと思う」とコメント。スマートニュースの松浦シゲキ氏は「5Gを使って競技が見られるように環境を整えるなど、ポジティブに考えることも必要だと」とした。
また、エッセイストの小島慶子氏は「やはり忘れてはいけないのは復興五輪であることだ。被災地の方々が、復興五輪が自分たちにとって、意味があると思っている人が少ないということが事前の調査でわかっている。それがコロナウイルスからの復興という意味づけによって、よってさらに忘れられてはいけないという思いもある。そして健康五輪というのなら、なおさら綿密な体制を整えた上で開催しなければならない。五輪で新型コロナウイルスが再燃したとなったら、日本は国際社会に合わせる顔がなくなる」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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