政治、経済、文化の中心・東京。その人口は1400万人に達しようとしているが、実はその半数は地方出身者。毎年40万人以上が進学や就職などで“上京”しており、東京に人が集まりすぎる“一極集中”の状態が続いている。夢や希望を抱きやってく人、苦悩や挫折を経験し去っていく人。一方、新型コロナウイルスが蔓延、“リモート”も急速に普及している。そんな時代の東京の意味について考えた。
■夢を抱いて上京する人、夢破れて東京を去る人
この春、生まれ育った熊本県熊本市から上京したのが大村日向子さん(20)だ。美容師だった母の姿を見て育ち、美容専門学校に進学。東京で美容師の道を歩み始めた。「熊本でもできないことはないのと思うが、情報量や発信源は東京っていうのがあって。東京で頑張りたいなと思った」。
双子の兄・太壱さん(20)は一足先に家を出て、大阪の大学に通う。幼い頃から喧嘩三昧だった妹に、「自分は大阪で頑張って日向子はこれから東京で頑張っていく。やっぱりいいライバル、そんな感じだ。どっちが先に成功できるかが勝負だ」と笑顔を見せる。
一方、母親は「寂しいし、美容の世界って大変なので大丈夫かなという思いがあった。でも、やりたいって気持ちが強かったので、そこはしっかり応援してあげようかなと」と話す。美容学校もアルバイトも一緒だった親友の未来さんも「行って欲しくない、本当に。でも本人の持っている夢とか目標が最優先。全力で頑張ってほしいとなって思う」。
実は剣道一家の大村家。指導者だった父親の影響で剣道を始め、兄妹は高校時代、ともに強豪校のキャプテンとして活躍した。そんな父親に誘われ、家を出る前に最後の稽古に臨む。「熊本を離れて東京で仕事をするということになったわけだけども、今日の稽古が最後になるのかな。おそらく防具をつけることもないと思う。我慢することを覚えてきたんだから、そこをしっかり信じて新しいものにどんどんチャレンジしてしっかり頑張ってください」とエールを送った。
上京当日の朝、両親、そして兄に感謝のプレゼントと手紙を贈った日向子さん。空港には未来さんをはじめ、友達が見送りに来てくれた。「飛行機に乗って実感が湧いてきた感じ。いつまでも泣いているわけにはいかない。みんなから応援してもらって頑張れって言ってもらった分、しっかり気持ちを切り替えて今から頑張ろうかなって思う。楽しみだ」と笑顔を見せた。
東京へやってきて3週間。折しも非常事態宣言が出された。熊本の家族も心配しているという。「やはりこの状況なのでお店も休業になっているので、自宅で勉強をしている。外に出るのは、食料を買いに行くくらい。家にいる時間は会社とテレビ電話をして、体調と今日のスケジュールを確認し合ったりしている。顔が見えない、声が聞けないという状況ではないので、そこは少し安心している」。
反対に、この春、東京を離れる若者もいる。福島翔太さん(27)は、お笑い芸人という夢を抱いて上京、ほどなくして芸能事務所に所属したものの、現実は厳しいものだった。M-1、キングオブコント、R-1、全て一回戦落ちで終わったという。
「芸人としてのモチベーションが下がりつつあって。区切りじゃないけど、ちゃんと辞めて働こうと思った」。芸歴7年目の今年3月、住み慣れた部屋を率い払い、関東近郊の実家に帰ることにした。「芸人の時の小道具、それがなくなっていくのは寂しい。夢を現実にできなかったっていう寂しさ」・
それでも福島さんは「東京は、自分を成長させてくれる場所だと思う。芸人をやる前よりも、だいぶ成長したと思っている。また新しい夢を見つけてチャレンジしていきたい」と前を向いた。
お笑いトリオ・パンサーの向井慧は「僕は名古屋に生まれたので、名古屋でやるという選択肢もあったし、東京に来ると、それこそさんまさんやダウンタウンさんと仕事をして、“絶対太刀打ちできないじゃん”っていう挫折が何度もあった。だから東京には諦めるタイミングも、成長するタイミングもいっぱいある。僕は東京でやって良かったなと思うし、福島さんも東京でやって諦めがついて良かったんじゃないかなと思う」と話した。
■アフター・コロナの時代、一極集中の状況も変わる?
東京都北区赤羽出身の2ちゃんねる創設者・ひろゆき(西村博之)氏は「僕にとって東京は地元なので、変に思い入れのある人に地方から来られるのは面倒くさい(笑)。僕らはスエットやジャージで外に出るのに、コンビニに行くのにも気張って化粧をするみたいな。東京のメリットは、ライブ、イベント、舞台など、ここででしか見られないものあるということだったと思うが、それが今回のコロナウイルス騒ぎで無くなった。だから今、東京に住んでいるメリットはほぼないと思うし、東京では何でも手に入るという話だって、楽天やAmazonの商品は多い。そういう意味では、地方回帰が進むのではないかと思う」と指摘する。
福井から上京した慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「ひろゆきさんが言う通り、東京出身の人と地方出身の人とでは違う世界観があると思う。究極的には、それはテレビのせいだと思う。僕は福井でも仕事をしているが、生活そのものは福井でも問題なくできる。しかしテレビのローカル局が地元のことを取り上げるのは夕方の1時間だけで、他は朝から晩まで東京が映っている。東京のテレビ局が作ったドラマのおしゃれな中目黒が映ることで、“中目ってこんなにステキなんだ!私も橋の上で告白したい”みたいに思う(笑)」とコメント。
「こんな言い方をするのは良くないが、田舎の山奥で育った僕の“リアル”をお伝えすると、地方では偏差値40台でも運動ができたり、ブサメンでなければ最高の青春を送れる。だけど高校を卒業した瞬間、月給12万みたいな現実を目の当たりにし、急激にモテなくなって絶望する。一方、やっぱりメディアの空気感で、とりあえず東京に出ようという人は多いと思うが、3万円のアパートから始まり、“俺はここで終わる人間じゃないんだ”みたいな流れになる人たちも多い。その反面、大学とか出ている人の方が地元に戻ってきて公務員になれる、地元の大きい商社に入れる、電力会社に入れる。実はこっちの方が豊かだと気付いている人も多い」。
他方、ユーグレナ副社長の永田暁彦氏は「経営者としての立場で言えば、サプライチェーンは日本中に分散していて、工場も倉庫も配送拠点もばらばらだ。結局、東京に一極集中しているというのは会社の本社機能が集中しているという話だ。人と人との関係性が希薄なのに、“1番”という神話で東京に集まりすぎている。その神話を崩したいという信念が経営者としてある。アメリカでは非常に多くの都市が存在していて、それぞれに産業クラスターが存在していて、その周辺の田舎から人が集まってくるという仕組みになっている。フランスもそれを目指してやってきたが、日本もその方向性が必要だと思う」と話す。
「家族という最小限の集団がどこにいても幸せに生活できるということを日頃からトレーニングしなくてはいけないと思っている。実は今、東京の家は引き払い、“村”で生活、子育てをしていて、平日の3泊~4泊くらいAirbnbやホテルで生活をしている。それでも成立する。明日にも災害が起こるかもしれないというときに、東京じゃないとダメだという価値観が固定化するのが怖いからだ。今回の新型コロナウイルスを機に人々の意識も変わると思うが、それ以上に行政でも東京一極集中を変えさせようという方向の力学が働くことになると思う。だからこそ、経営者であり、アーリー・アダプターとして、その変化に最初に対応していきたい」。
編集者・ライターの速水健朗氏は「東京一極集中という流れは今に始まったことではないが、それでもインターネットによって情報環境や物を手に入れるための環境は都市と地方がイコールになってきているし、テクノロジーが進めば進むほど都市がいらなくなるということが予想されてきたが、実は逆の現象が起こっている。面白いのは、例えば先端の企業になればなるほど、“電子会議でできるじゃん”と思うのに、“家賃の高いところになぜ間借りするんだ”ということになっている。これは日本に限ったことではなく、世界の都市人口はどんどん増えている。今までさんざん地方創生にお金をかけて大失敗してきたが、それくらい今の世界は分散には向いていないということだ」と指摘。「東京への憧れが強いのはバブル世代までで、今は地元志向も強い。国からお金も出ているので、地方にIターン就職もできる。ただ、実際に仕事があるのは都市部だというのが現状だ。そして都市に来るのは、大きく分けて偏差値が上の人で、彼らが大学に進学するために東京にやってくる。アフター・コロナで変化が生まれるかもしれないが、偏差値が高い人しか移動できない、という今の社会の構造を変える必要があると思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:地方から夢を追いかけ東京へ ハタチの上京物語に感動 アフターコロナ時代は地方分散?
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