この3月、4月と、さまざまなプロレス団体が無観客試合を行なってきた。もちろん観客を入れた通常の興行がベストなのだが、無観客には無観客のよさもある。その一つが“自由さ”だ。無観客だからできることもある。
たとえば、ノア後楽園での潮崎豪vs藤田和之。賛否両論を呼び、しかし間違いなく歴史に残る30分の睨み合いは観客がいたら不可能だっただろう。また場外乱闘もやりたい放題、いつもとは違う“遊び”や“実験”もやりやすい。
4月19日にABEMAで放送されたノアTVマッチでは、GHCナショナル王者のベテラン・杉浦貴が大いに“遊び”を見せてくれた。この日の相手はロッキー川村。パンクラスで総合格闘技2階級制覇を達成した強豪であり、また映画『ロッキー』が好きすぎるあまり自分がロッキー化、プロレスのリングではボクシンググローブ着用という異色選手だ。ちなみにリングでマイクを握っても『エイドリアーン!』しか言わないことでおなじみ。
そんな相手との対戦に、杉浦もグローブ着用でリングイン。どうもボクシングマッチということらしい(そのわりにはロープブレイクあり)。観客がいたら、全員の頭の上に「?」が浮かんでいたに違いない。
(猪木vsアリ状態がなぜかノアマットで実現)
しかし、パンチの攻防ではどう考えてもロッキーが上。打ち合いで押された杉浦は「ヤバいヤバい……」と言い出しグローブを外す。今度は異種格闘技戦の様相だ。すると杉浦はマットに座ってアリキック。ノアマットで猪木vsアリ状態である。思わず「ペリカン!」とアリ化するロッキー。
この攻防で主導権を握ったのか、杉浦は場外戦へ。入場ゲートのフェンスにロッキーのグローブの紐を括りつける。場外カウントが進む中、杉浦は悠々とリングへ。ロッキーはなんとかグローブを外してリングにダッシュするものの、リング直前で転倒。あえなくリングアウト負けとなった。『ロッキー3』のロッキーvsサンダーリップスを超える闘いだったともいえる。勝った杉浦はマイクを握ると「一言いわせてくれ。エイドリアーン!」。
視聴者を愕然とさせたであろうこの試合は、杉浦の遊び心という引き出しを感じさせてくれるものでもあった。杉浦によると、グローブを着けた理由は「濃厚接触回避」だった模様。
「触らないようにね。もっと距離を取ってアウトボクシングでやりたかったんだけどインファイトされちゃったね」
ショートタイツに白マスクという姿でコメントした杉浦は、控室に戻り際「(映画の)ロッキーは5(+『ザ・ファイナル』まであるから)」とも。実は選手としてのロッキーを高く評価しており“続編”もやる気満々のようだ。
文/橋本宗洋