今年の5月1日は、マット界における重要なアニバーサリーだった。20年前のこの日、PRIDEの東京ドーム大会が開催。そこで行なわれたのが、桜庭和志vsホイス・グレイシーの名勝負だ。15分無制限ラウンドという破天荒なルールだったこの試合。両者は6ラウンド、つまりトータル90分にわたって濃密な攻防を繰り広げ、タオル投入により桜庭が勝利している。
それから20年後のゴールデンウィーク。レジェンドとしてさまざまな舞台に立ってきた桜庭は、ノアのリングに立っている。5月3日に配信されたTVマッチでは杉浦貴率いる「杉浦軍」のメンバーとして「金剛」との対抗戦に登場。新鋭・稲村愛輝を下した。
序盤から稲村をグラウンドに引きずりこみ、関節技で次々とロープエスケープさせていく桜庭。MMAや自身がプロデュースする『QUINTET』のグラップリングマッチにはない展開だけに「(ロープに)逃げ過ぎ」とクレームも。極めては逃げられ、という流れでスタミナを費やしてしまう面もあった。
また桜庭は稲村のサイズとパワーにも苦しめられた。とりわけコーナーに叩きつけられた時のダメージが大きかった模様。試合後のインタビュースペースでも「デカい……」と顔をしかめていた。
とはいえ、ノアのリングでも“IQレスラー”ぶりは健在。「上半身攻めてもダメだから足で」と、足関節技でのフィニッシュにもっていった。下から足を絡めて稲村を崩し、そこからアキレス腱固めへ。公式記録は桜庭の申告で「デラヒーバフットロック」と発表された。
デラヒーバとは伝説的柔術家であり、柔術のテクニックの名前。試合後の桜庭は、QUINTETでデラヒーバフットロックを極めたクレイグ・ジョーンズの名も出した。桜庭はグラップリング最前線の技術をノアのリングで披露したわけだ。ホイス戦の20年後に柔術家の名がプロレスの公式記録に記されたことにもなる。桜庭が積み重ねてきた歴史は、そういうところからも感じられた。
5月9日のTVマッチでは、タッグマッチでグレート・ムタとの対戦も。取材陣にムタ対策を聞かれると「反則してくると思うんで、やられたらやり返す。(ムタの世界観に)付き合うかも。それかこっち(の土俵)に引き込むか」。
桜庭がムタに“魔界殺法”で対抗するのか、それともデラヒーバで転がしてみせるのか。しかもそんなマッチアップが実現するのがノアのリング。予測不能にもほどがある。
文/橋本宗洋