出演していた木村花さんが亡くなったことを受け、制作中止が発表された『テラスハウス』。この問題で改めて浮き彫りになったのが、SNSによる誹謗中傷だ。匿名での心ない投稿に対し、多くの著名人が問題を提起するも、そのこと自体が新たな炎上を呼んでいる他、「有名税だ」と主張する人も少なくない。
・【映像】「言葉のリンチは人を殺す」「正義と暴力は紙一重」デマで殺害予告まで...スマイリーキクチ
こうしたネットの誹謗中傷に対し、「“ネットの世界”“ネット民”などと言われたりもするが、ネットの世界と現実世界は地続きだ。“言葉のリンチ”は人を殺す」と話すのが、デマによる誹謗中傷と10年以上にわたって闘い続けているお笑い芸人のスマイリーキクチだ。
■「捕まった人たちは皆、“正義感でやった”と話していた」
発端は1999年ごろのこと。1989年に起きた「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の犯人の一人だという“ネットデマ”が広がった。「誰かがイタズラで2ちゃんねるに僕の本名である菊池聡という名前を書き込んだ。そこから“スマイリーキクチは足立区出身で、犯人と年齢が一緒だ。犯人はではないか”というデマがスタートした。それから“スマイリーキクチが殺人事件のことをネタにした”など、やっていないことまで書かれるようになった」。
2008年にオフィシャルブログを開設したところ、そこにも誹謗中傷が殺到。ついに刑事告訴に踏み切った。2009年、中傷した人物を一斉摘発するも、全員不起訴となった。被害は今なお継続している。「デマが広がってすぐ、事務所のホームページで“そういった事実はありません”と否定したが、20年も続くとは夢にも思わなかった。警察で事件化してもらったことで、かえって“売名行為だ”“時効が過ぎたからやった”などと書き込まれるようになり、火に油を注いでしまった部分もあった。僕がテレビに出ると、スポンサーさんやテレビ局に“不買運動する”といった電話をかける人もいる。ちょっと前にも、“生放送をやる”といった途端に殺害予告が来て、出られなくなってしまうことがあった。そうやってスケジュールがなくなることには正直、慣れてもいるし、永遠に続くのだなと思っている」。
そうした書き込みをした人たちについて、スマイリーキクチは「最初に書き込んでいた人たちは匿名だったが、そのうちにパソコン教室の先生など、実名でブログをやっている人も現れた。インターネット好きの人やプログラマーの中には“インターネットの魅力ってそういうものだろう”といった批判もあった。また、捕まった人たちは皆、“正義感でやった”と話していた。中には“会社に行く前に何かいいことをしよう”と考え、朝8時前後に“人殺し”など書いていた会社員もいた。もともと事件が残忍で酷いものだった一方、犯人に関する情報が少なかったので、やっぱり見つけると“懲らしめたい”“叩きたい”という気持ちがあるのだろう」と話す。
「しかし、正義と暴力は紙一重だ。自分が正義だと思っていたことが、実は暴力だったということもある。コロナの“自粛警察”もそうだ。正義というのは本来弱い人を守るものであって、誰かを吊るし上げるのは根本的に違うはずだ。加えて、誰かを叩くことで気が紛れるという、“憎しみ依存”の人も多いと思う。若い世代は学校で情報モラルを学んでいるが、むしろ30代以上の人の方が過激だ」。
お笑いコンビ・EXITの兼近大樹は「僕の場合、事実に付随してデマも流されている。僕みたいな人間がある程度の誹謗中傷や批判を受けるのは仕方がないと思っている。でも、そうしたことを許してしまえば、他の人間まで誹謗中傷を受けてしまうかもしれないと感じた」と話す。一方、りんたろー。は「言葉は時に人を傷つけたり、死に至らしめたりする。一方で、人を感動させたり、あったかい気持ちにさせたりすることもできる。そのくらい力のあるものだ。大前提として、僕たちは育ってきた環境も違えば、感じ方も違う他人同士だ。一言足りないだけでも、一言足してあげるだけでも、伝わり方が違ってくる。そのことを知ってほしい。僕も誹謗中傷で心がすり減ったが、兼近に関しては今もそうだと思う。だからこそ、自分の言葉で兼近に嫌な思いはさせたくないので、言葉の隅々まで配慮するし、お互いにぶつかることもない」と訴えた。
■「言論の自由の前に、言論の責任が絶対条件だ」
今回の問題を受け、高市総務大臣は「匿名の者が権利侵害情報を投稿した場合、発信者の特定を容易にするための方策などについて検討する予定だ」との考えを明らかにしており、立憲民主党の安住国対委員長も「既存メディアには伝えられない様々な情報発信を止めることは反対だ。心ない誹謗中傷で人を傷つけるようなやり方については何らかのルール化は必要なので、自民党にもそのことは投げかけた」と話している。
しかしネットでは「最近は度が過ぎるので規制やむなし」「政治家が批判の封殺に利用しないか?」「根本的に解決したいなら規制より道徳の授業」といった声もある。これに対し、スマイリーキクチは「書く人たちというのは“ネットは何をやってもいい”という考えを持っている人が多い。そこは教育を変えていく必要もあるが、道徳心を求めることには限界が来ている。プラットフォーマーの努力も有効だし、ある程度、法規制を厳しくすることも必要だ」と訴える。
「現状ではプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報の開示請求をしても、裁判をしなければならない。しかもTwitterであればツイッター社と裁判をし、相手が見つかればその人とも裁判をしなければならないので、合計3回も裁判をしなければならない。それだけでも数十万円がかかってしまうことになる。削除要請も含め、よりスムーズにできるようにしてほしい。この議論になると、必ず言論の自由との兼ね合いや“内部告発ができない”といった指摘が出てくるが、内部告発の件数と比べて、明らかに誹謗中傷の件数の方が多いし、内部告発のための場所は色々なところに用意されている。僕は言論の自由の前に、言論の責任が絶対条件だと思っている」。
慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「インターネット空間が信頼性のある場所として整備されていない過渡期であるにも関わらず、その意見を“国民の意見だ”と受け取るようにしてしまったことに間違いがあると思っている。署名運動や顔を出してのデモに声としての価値があるのは、“私は責任を持ってこの意見を言っています”というものだからだ。今まで国会議員たちはインターネット上の声は無責任なものだと散々言っておきながら、こういう時だけ、あたかも世論であるかのように扱ってしまった。名前を名乗らないクレームにダメージを受けるからこそ、攻撃を加えた方は“効くんだな”と調子に乗るわけで、これでは誹謗中傷された人たちが、“インターネットなんて気にしなくてもいい。何の価値もない場所だ”と思えなくなってしまう」と指摘。
その上で「日本とって、IT業界は長く“よそ者、若者、バカ者”だった。というのがある。仮に明治から続くような伝統のある企業や、国営だった企業などが盛り上げていれば、社会の新しいインフラだとして行政や政治と連携しながら上手く整備もされていた気がする。しかし、ほとんどは外来で、ベンチャー企業で、ハチャメチャにやる若手が盛り上げていった。だからこそまともに受け取られず、いつまで経ってもまともなIT大臣も生まれないし、役所もITに弱い。にも関わらず、未だに“ITは俺らの知らないところで勝手に盛り上がっていった”という感覚の偉い人が多すぎる」とした。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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