5月28日、およそ3カ月ぶりに東京・品川区の屋形船会社「船清」が運航を開始した。女将を務める伊東陽子さんも「当分できないと思っていたので、本当にうれしいですね」と感無量だ。船清は、今年1月、新年会に参加した客や従業員、合わせて9人が感染。“国内初のクラスター発生場所”として名指しされた。
クラスター発生当初、「屋形船」という言葉は連日、大々的に報じられた。「みんなわからない状況で、こちらの方で起きてしまったので、みなさん興味本位でバッシングも受けましたし、ずっと報道が流れていたので、本当に苦しかったですね。たまたまうちが最初にクラスターが起きてしまっただけ」と、発生当時の苦しみを振り返った。秋までキャンセルが相次ぎ、損失は1億円超に。その後、小池百合子都知事が「いくつかの悪条件がそろってしまった」「屋形船そのものに衛生的な問題はない」との見方を示し、都のロードマップでも「飲食店」扱いにとなったことで、営業を再開することができた。船内でも、対面で接することがないようにされているほか、船の換気や施設の消毒、席数を通常の3割ほどに減らすなどの対策をしている。
ただ、今もなお“国内初のクラスター”というイメージに苦しむ船もある。舟宿・小松屋、佐藤勉さんは「予約がゼロっていう状態になってしまった」とこぼす。90年以上続く老舗の4代目で、緊急事態宣言解除の翌日から営業を再開したが、予約はゼロのまま。都内36の屋形船事業者が加入する「屋形船東京都協同組合」の理事長も務めている佐藤さんのところには、他の船宿の悲鳴も届く。「電話口で嫌味みたいなことを言われたり、コロナの患者を出してもまだやってるのか、みたいな感じのことは言われました。脅迫とまではいかないんですが、それに近い手紙を送られた、そういう船宿もありました」と、ネットや電話による誹謗中傷を受ける厳しい状況を明かした。
今から1200年前の平安時代に、その原型が生まれたという屋形船。この歴史を守ろうと立ち上がった人もいた。NOFATE株式会社・藤田雄也社長は、屋形船が浮かぶ隅田川の様子が失われたことに気づき、「なんとか力になれることはないか」とクラウドファンディングを始めた。運航再開を望む支援によって、およそ160万円が集まり、その全額が消毒の備品や乗船チケットになった。藤田社長の願いは「元気な姿で走っている屋形船を見て、生活が戻ってきたなという状態になる」ことだ。
ネットによるデマや誹謗中傷など悪い部分の問題も多い中、ネットの力で多くの人達を救った一面もある。その一つとしてクラウドファンディングは、各地で大活躍している。「新型コロナウイルス感染症拡大防止活動基金」は、医療従事者などを支援するため開始され、国内購入型寄付型のクラウドファンディングサービスでは、史上最高額を記録。寄付金は5億3000万円、支援者数も1万6300人を突破した。
また、3月から5月の売上損失より運営資金が枯渇していた青森県の映画館・青森松竹アムゼとシネマヴィレッジ8を救うためのクラウドファンディングでは、現在およそ870万円が集まっている。茨城県・大洗は、ガールズ&パンツァーの聖地巡礼地として有名な観光地だったが、外出自粛で売り上げが低迷。飲食店や宿泊施設を支援のためにクラウドファウンディングを行ったところ、目標額2000万円を達成し、現在は3500万円を目指している。福岡県・天神では、歴史ある屋台が閉店廃業に追い込まれたが、開始1週間で500万円を達成、現在およそ980万円が集まるような状況になった。
建築家でモデルのサリー楓は、「飲食店や観光業みたいな昔から存在するものが、クラウドファンディングという最先端の方法で救われるのは大変明るい状況だと捉えている。たとえばお金を払わないまでも、応援しているホテルや飲食店を個人のSNSで紹介するといった方法で、コロナウイルスが収束した後の経済を刺激する、といった支援の仕方もあるかなと思う」と語った。
(ABEMA/『けやきヒルズ』より)
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