香港から中国本土への犯罪容疑者の移送を可能とする「逃亡犯条例」改正案に反対する100万人デモから1年。未だ抗議活動が続く中、中国政府は「国家安全法制」を導入する方針を固めた。民主活動家のジョシュア・ウォン氏が「去年政府で議論された逃亡犯条例改正案よりも危険だ」と警鐘を鳴らすように、これが実現すれば香港での反政府的な行動は禁止され、一国二制度の崩壊にもつながることが懸念されている。
・【映像】香港100万人デモから1年 世界に与える影響とは?
こうした事態に対し、アメリカ、イギリスなどの4カ国は「国家安全法制」導入に反対する共同声明を発表。また、日本政府は、菅官房長官が「一国二制度の元、従来の自由で開かれた体制が維持され、民主的安定的に発展していくことが重要であると考える。中国側には外交ルートを通じて、このような我が国の一貫した方針を伝えており、関係国と連携しつつ適切に対応していく」との見解を示している。さらに自民党の外交部会は「国家安全法制の導入に非難決議」「習近平国家主席の国賓来日再検討」を政府に要請した。
中国政府の動向に詳しい戦略科学者の中川コージ氏は「北京中央には、返還から50年間の区切りをもって接収しようという思惑があったので、自由貿易の金融センターとして経済的なメリットを大陸に流し続けてきた香港の発言権が強くなっていくのは困る。しかし一気に締め付ければ諸外国から一国二制度が守られていないのではないかという批判を受けてしまう。そこで深センや広東を盛り上げることで、真綿で締めつけるように香港を地盤沈下させてきた。だから本来はこそこそとやりたかったが、逃亡犯条例の問題などで香港が立ち上がったので、中国国内の不満や批判をかわすためにも、一気に締めざるを得なくなった。ただ、これはあくまでも既定路線で、新型コロナの影響で数カ月ずれて今のタイミングになったということだし、国家安全法ができたから香港の民主主義が侵されるということではなく、そもそも北京中央は返還時から香港の自由を考えていなかったということだ」と話す。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「欧米で新型コロナの感染爆発が起きて大混乱している状況の中で、中国は発生源として批判されながらも封じ込めたことで自信を深めているのではないか。また、アメリカが世界秩序からどんどん撤退し、中国がその担い手になるという見方もある。それでも一国二制度の香港にこれほど強権的なものを持ち出せば、それは日本や韓国、東南アジア、あるいはインドといった周辺国からのイメージは確実に悪化するはずだ。そのことをどこまで考慮しているのだろうか。国内の批判をかわすことと、国外からのイメージを維持することのバランスを、今回は読み間違えているとは言えないか。日本としては東南アジア、オーストラリア、インドあたりと連携し、香港を支持するというメッセージを出し続けることも大事だと思う」と指摘。
これに対し中川氏は「北京中央のプロパガンダも受けた上でだが、“香港は今までお金を儲けていい思いをしてきた、さらに自由を求めるのか”というのが国民一般の感覚だ。その意味では、やはり外交の方が優先度は高い。その上で、日本との間では相互不干渉のコンセンサスがあるので、内政干渉にならないようにしなければならない。一方、英中の合意が守られていないということには国際的な感覚から主張できるし、G7の多国間協調の中で中国を抑制していくという方法はある。ただ、米・英・独・仏含めて自由民主主義陣営は一枚岩だと思われがちだが、そうではない。例えば米中がワクチン開発競争をする中、4日にドイツのメルケルさん、5日にはフランスのマクロンさんは電話首脳会談で“中国のワクチンを応援する”と明言してしまっている。つまり中国にとってドイツ、フランスは“ファイブ・アイズ”諸国と違って、手を組みたい相手だ。そういう面に加え、トップレベルではなく、外相のレベルで声明を上げるというのが良いのではないか」とコメント。
佐々木氏も「冷戦時代はアメリカに頼っていればなんとなく上手くいったが、日本としても自分なりのポジションを考えていかなければいけない状況になった。戦後一貫して右も左も対米従属はやめろと言ってきたが、むしろ否応なしに独立させられているということだ。ただ、アメリカと喧嘩して得することはないし、中国と喧嘩をしても得はしない。そういう状況でいかに立ち回るか。日本は非常にグレーなポジションでいかなければいけない」と話した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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