逮捕歴のTwitter投稿の削除認めない逆転判決…どこまで検索結果に残し、どこまでプライバシーを守るべきなのか?
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 Twitter上に残った自身の逮捕に関する情報の削除を求めた裁判の控訴審で、東京高裁は29日、削除を命じた一審判決を取り消し、男性側の請求を棄却する判決を言い渡した。

・【映像】Twitterに残り続ける逮捕歴は削除すべき?

 訴えを起こした男性は2012年、のぞき目的で女湯の脱衣所へ侵入した疑いで逮捕され、罰金10万円の略式命令を受けている。しかし、その後も記事がTwitter上で拡散されたため、就職活動が妨げられるなどの支障が生じているとして、Twitter社に削除を求めていた。

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 Twitter社側は「表現の自由によって保護される範囲内」としているが、ネット上に残された犯罪歴などの個人情報は「デジタルタトゥー」とも呼ばれ、削除を求める権利「忘れられる権利」が議論されてきた。

 男性側の田中一哉弁護士は「非常に不当な判決で内容の検討が不十分」「“Twitterが情報流通の基盤としての大きな役割”という判決内容は間違っている。Googleと比べて役割ははるかに小さい」としており、上告を検討しているという。

 もし、知られたくない情報がネット上に残っていたとしたら、あなたはどうするだろうか。

■Twitterの役割をめぐって分かれた判断

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 今回の判決について、ネットのプライバシー規制に詳しい徐東輝弁護士は、GoogleとTwitterへの評価の違いが判断の分かれ目になったと説明する。

 「Twitterがどういうサービスなのかという捉え方が地裁と高裁とで異なっている。地裁は“情報流通の基盤にはなっていない”、つまり国民が情報を収集するためのインフラになっているGoogleとは違い、単なるWEBサイトのようなものだと捉え、従来のプライバシー侵害の裁判のように、ある事実を公表すべきだ・公表しておくべきだという利益と、公表されるべきではない・プライバシーを守らなければならないという利益のどちらが大きいかで判断、削除を命じた。他方、高裁はGoogleと同様のものだと捉え、誰がどう考えてもプライバシーを守ってあげないといけないというものでないかぎり、削除は認めないという判断をした」。

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 また、東京高裁は判決で「Twitterの検索機能の利用頻度はGoogleほど高くないことは公知の事実」「本件逮捕の事実が伝達される範囲は限られ、原告が具体的被害を被る可能性も低下している」と指摘している。「Twitterも国民が情報を収集するためのインフラになっているとしつつも、どちらかと言えばGoogleの方が利用されているし、検索結果に表示された場合のプライバシー侵害の程度もGoogleの方が大きいという判断をしているということだ」(同)。

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 こうした判断に対し、Black Diamondのリーダーのあおちゃんぺは「Googleで検索した場合にもTwitterの投稿は出てくるし、Twitterにはリツイートの機能もあるので、むしろ拡散力は大きいと思う。自分が知ろうとしていない情報までリツイートで回ってくることを考えれば、害は大きいと思う。Twitterをなめすぎではないか。こういうものこそ裁判員裁判にして、色々な年齢層の人を入れて判断したほうがいいと思う」と指摘。お笑い芸人のカンニング竹山も「報道で名前が出なくても、SNSで出回ってしまうという問題もある。Googleに比べてTwitterは大丈夫という判断は、今の社会とズレているのではないか」と懸念を示した。

 徐弁護士は「今回の事案はGoogleの検索結果には表示されず、Twitterだけで出てくるというものではあったが、確かに最近では皆さんがTwitterでたくさん検索しているし、プライバシー侵害の度合いも大きいのではないかという、その国民的な感覚を訴えていくことで、裁判所の判断が変わってくる可能性もありうる」とした。

■どこまで検索結果に残し、どこまでプライバシーを守ってあげるのか

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 一方、ジャーナリストの堀潤氏は「先日『キッズライン』の問題を取り上げたが、事業者側はベビーシッターに犯罪歴があるかどうかの情報を得られない事情があると釈明していた。そもそも犯罪歴のデータにどうすればアクセスすることができるのか、それは誰にでも開示されるものであるべきなのか、あるいは全ての犯罪歴の情報に公益性があるのか、それとも再犯率の高いものなどにすべきなのか、そういう議論も必要ではないか。GoogleにしろTwitterにしろ、みんながアクセスすることができるために再起が妨げられるとしたら、速やかに行動を取るべきではないか」と問題提起。

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 あおちゃんぺも「今回の男性も就職に影響が出るということだが、就こうとする仕事によっては、会社の側が先に分かっておかなければいけないこともあると思う。そう考えると、載せておいた方がいいという考え方もあると思う。ただ、例えば企業向けのデータベースのようなものであれば分かるが、SNSにはガセが載っていることもあるので、SNSに残すのは微妙ではないか」とコメントした。

 同様の判断は、2017年に最高裁判決も示している。2011年に女性へのわいせつ行為の容疑で逮捕され、罰金刑が確定した男性がGoogleを相手取り裁判を起こした。最高裁は「プライバシーを公表されない法的利益が明らかに優越する場合に削除が認められる」として、削除を認めなかった。

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 徐弁護士は「今回のケースの罪名は建造物侵入だが、判決文では“女性の裸をのぞき見る目的で侵入した”と明言しているので、事実を公表すべきか否かの判断において、その点は明らかに考慮されている」と説明。

 「判決文に書かれていることだが、男性は事件後に結婚されている。ただ、奥さんやそのご家族はこの件についてご存知ないようだ。それでもTwitterで検索すると出てきてしまうということは、削除されない限り、あるいは忘れられる権利がない限り、デジタルタトゥーとしてネット上に残り続けてしまう。就職先がなく、社会からも疎外された結果、再び罪を犯してしまうケースは少なくない。実は最高裁も、罪を償った後の平穏に暮らす利益や更生するための利益については認めている。前科のある方を我々の社会がどう包接し、更生するための環境をどう作っていくのか。そして、犯罪の軽重、行った事実、罪の償い方、今どのように社会で過ごしているのかといった様々な事情を考慮した上で、どこまで検索結果に残し、どこまでプライバシーを守るのかという、重大なことが問われている」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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