賛成が8割近くに達する結果となった、憲法改正案の賛否を問うロシアの全国投票。プーチン大統領が最長で2036年まで続投できることになる大統領の任期に関する項目に注目が集まっているが、北方領土問題が懸案の日本にとって「外国への領土の割譲を禁止」という項目も気になるところだ。
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東京大学先端技術研究センター特任助教の小泉悠氏は「今回の改憲案は“2階建て”だ」とした上で、領土割譲禁止の項目について次のように説明する。
「1月にプーチン大統領が出してきた改憲案のパッケージは、退任すると見られていた2024年以降も自身と周辺の人々が権力を保てるような仕組みを入れた、いわば“プーチン政権サバイバルキット”だった。その後、国民の人気を得るため、国会議員や法学者だけでなく、スポーツ選手や俳優も入れた憲法改正評議会を作り、どのような条項を加えればいいか議論させた。領土割譲禁止というのは、その時にサハリン州から出されたものだ。北方領土はこのサハリン州の一部だというのがロシア側の主張で、サハリン州としても日本と条約を妥結してしまうのが非常に不安だった。他方で、ロシア政府としては対日カードとして手放したくはない。そこで、“ただし、領土の確定作業は除く”という付帯条項を入れた。つまり国内向けには“これで安心”と見えるし、日本向けには“まだ望みはあるんじゃないか”と見える、いわば玉虫色の改正案だ」。
安倍政権下では、プーチン大統領との交渉によって北方領土問題が解決に進むという期待感が高まった時期もある。
小泉氏も「安倍政権による新しいアプローチが始まった時には、私も“だいぶ日本側も思い切ったな”と感じたし、ロシア側もなかなか良い感触だったので、“これはいよいよ話が進むかもしれないな”期待した。しかし、その後の4年間で分かったのは、やはりロシアは短期的に解決させる気はないということだ」と話す。
「“絶対に返さない”とは言わないが、安倍さんが言うように“我々の代で、我々の任期中にやろう”という意思もおそらく無い。どちらかと言えば、“どうも日本は焦っているので、そこを突けば色々なことができるんじゃないか”という思惑があるのではないか。例えばプーチン大統領は最近、“日米安保なんか結んだら返ってこないぞ”と言っている。つまり、領土問題を外交上の“餌”にすれば、西側陣営の結束を崩すことができるかもしれない、日本も対露制裁を緩和してくれるかもしれない、と考えているということだ」。
では、日本は今のロシアとどう付きあえばいいのだろうか。
小泉氏は「ロシアにとって“領土問題に前向きに取り組む”というのは、日本が期待するような“前向き”ではない。2018年9月の東方経済フォーラムにおける、“前提条件なしで平和条約”というプーチン大統領の発言は、1993年の東京宣言を反故にする、つまり、まず領土問題を解決してから平和条約、という順序をひっくり返したことになるが、そこに安倍さんが乗っかって“いいですよ”と言った。そして日本側が“56年宣言でやろう”と提案したら、“平和条約の後に引き渡すとは書いたけど、主権のことは書いてないよね”と、まるで“一休さん”みたいなことを言い出した。どうもロシアに寄っていっても、誠意ある答えが返ってくる感じがしない」と悲観的な見方を示し、「日本にできることは“現状維持”しかないと思う。当面の間は返ってこないことも承知で、しかし時効にはさせない。他方、ロシアの言うことを聞いていけば、主権抜きで島を使わせてもらう権利をくれとか、あるいは日米安保に何らかの制限を加えさせろとか、どう考えても日本の利益にならないことばかりを飲まされそうなので、停滞させていた方がプラスにはならないが、マイナスにもならないと思っている」と話した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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