“実況名人”の真骨頂だ。プロ将棋界初の早指し団体戦「第3回AbemaTVトーナメント」の決勝トーナメント1回戦、チーム三浦とチーム広瀬が7月11日に行われ、解説を務めた藤森哲也五段(33)が、6時間を超える生放送で、将棋界では使われない新ワードを次々と使いこなし、視聴者を大いに楽しませた。競馬、麻雀、野球、ゲームなど、将棋ファンとも近そうなジャンルから、局面に合わせたワードを瞬時にチョイス。最近ではYouTubeのチャンネルも解説した棋士の巧みな話術が、夏の夜に全開になった。
これほど棋士の解説でファンの心を踊らせることができるのか。そんな声が出るほど、藤森五段のトークが冴え渡った。これまでも放送対局で解説に登場すると、指し手の説明もしつつ、強烈な一手や、劇的な局面を、将棋以外のものに例えて一気に伝えることから「将棋実況」というフレーズもおなじみになっている。11日は午後5時から始まり、最終局までもつれ込んだ9本勝負を、聞き手の貞升南女流初段(34)とともに、11時過ぎまで6時間を超える長丁場でも、全くの疲れ知らず。今回は、以下のような言葉が飛び出した。
◆一完歩(競馬でよく用いられる言葉。馬の歩幅、馬の一跳びのことで、1本目の脚が地面を離れた地点から4本目の脚が着地した地点まで)
第2局で広瀬章人八段(33)が本田奎五段(23)に対して、ややリードを奪った局面で使った。
◆全ツッパ(麻雀で用いられる言葉。相手がリーチをかけたり、アガリが近そうな状況であったりしても、防御をせず真っすぐにアガリに向かうこと)
同じく第2局。広瀬八段が、本田五段に対して一気呵成に攻め込んだ局面を説明した。
◆金の延べ棒(金属を溶かし貯蔵しやすい形にしたインゴッドの一種)
第3局で後手番の黒沢怜生五段(28)が三間飛車を採用した際、本来守備に使う金を3三の地点に移動させてきた手を例えた。
◆メジャーリーガーに金属バット(プロ野球は国内外問わず木製バットを使用)
同じく第3局。三浦九段の強固な銀冠穴熊の説明として使った。
◆マヌーサ(人気RPG「ドラゴンクエスト」シリーズに登場する呪文。相手をまぼろしに包んで惑わす)
第5局。黒沢五段が三浦九段に対して粘りを見せた局面について用いた。同じワードはAbemaTVトーナメントの予選リーグでも使ったことがある。
対局を見て楽しむ「観る将」にとっては、ありがたいことこの上ないエンターテイナー藤森五段。次に登場する時は、どんな言葉が飛び出すか。
(ABEMA/将棋チャンネルより)