「働き方改革」が叫ばれる中にあっても無くならない過労死。辞めたくても辞められない、本当は仕事が好き。14日の『ABEMA Prime』では、そんな理由で長時間労働から抜け出せずに悩んでいる女性を通じて、過労の問題を考えた。
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■真面目にやればやるほど、“じゃ、あれもできるでしょ”と…
印刷系の企業で法人営業を担当しているミキさん(仮名)は、この日、朝5時台に家を出た。睡眠時間は4時間にも満たない。「締め切りの近い提案書が溜まっていて、これでも今日中には終わらないと思う。終わらないから土日に回そうかなと。真面目にやればやるほど、“じゃ、あれもできるでしょ”と同じ人に仕事が集中しがちで…」。
6月のある週のスケジュールを見てみると、平日の平均睡眠時間は約5時間、それ以外の時間はほぼ仕事で埋まっていた。「特にこの週は起きたら仕事、帰ったら急いで寝て、また明日の仕事に備えなきゃ、という感じで。24時間、仕事のことで頭がいっぱいだった。基本的には移動中もパソコンを開いて、何かしらの仕事をしていた」。
仕事を終え、帰路についたのは午後9時過ぎ。これでも普段よりは早いという。コンビニで“自分へのご褒美”として砂肝を買った。実はこの2年間、こうした状況がほぼ毎月続いているというミキさん。状況を変えるべく、転職活動を始めてみたこともあるが、忙しさの中で集中することができず、結局やめてしまったという。
■“考えないことで乗り切る”日々が常態化、体調不良に…
その結果、イライラすることが増え、ついに躁鬱の症状が出ていると診断されてしまう。今も定期的に薬を服用してはいるが、苛立ちや不安は消えない。「恋愛する時間もなく、いい歳で独身なので、このままの働き方を続けてずっと独身なのかなと思うと、暗い感じにはなってしまう。でも、以前は飲みに行って愚痴を言い合えば、“明日からも頑張ろうか”って乗り切ることができていた。それが今はコロナもあってそういう機会が減り、本当にしんどい。電車のホームで“あぁ…”となったこともある。それでも、“こんな会社のために死んだら負けだ”という思いもあって、根性でやるかって…」。
労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」の今野晴貴氏代表は「過重労働の中で相談できる人もいなくなり、その他の選択肢が見えなくなっていく。そして追い込まれてしまった、というケースは本当によくある。しかも、“この状況はおかしいのではないか”と考えることでかえって辛くなってしまうので、“やるしかないんだ”と思い込む。そうやって“考えないことで乗り切る”日々が常態化し、体を壊してしまう。私たちのところに相談に来る方々も、“倒れて初めてこの状況を変えなきゃいけないと思った”とおっしゃる方が非常に多い」と話す。
■リモートワークで広がる“見えない残業”
翌土曜日は自宅でリモートワーク。出社すると「残業扱い」になり、上司や人事に注意されるからだという。先月の勤務表を見ると、残業時間は83時間と、すでに「過労死ライン」といわれる80時間を超えているが、無申告の自宅での仕事を含めれば、トータルの残業時間はゆうに100時間を超える。
ミキさんのような働き方は、決して他人事ではない。連合の調べによれば、今年4月以降にテレワークを経験した人のうち、残業を申告しなかったと答えた人は65%以上に上る。さらに、「申請をしても認められなかった」と答えた人は過半数を超えた。コロナ禍によるテレワーク普及の影で、“見えない残業”が広がっているようだ。
今野氏によると、リモートワークに代表されるように働き方が多様化したことで、「在宅過労死」や「副業過労死」など、新たな「過労死」が出てくることが予想されるという。「リモートワークに切り替える一方、労働時間の管理は自分でやってください、という会社が増えている。しかも、どんなに工夫しても終わらないような仕事量を振ってくる。また、ゆとりがなく働かなければいけない高齢者が増えているが、それに伴って労災率も高まっている。若い人と同じようには働けないのに、企業のケアが行き届かず、無理な働き方をしてしまうからだ」。
■企業による「やりがい搾取」のスパイラルに…
一方でミキさんは、こうも話す。「仕事が回らなくなりつつあるので、お客さんにも迷惑をかけそうだなと。また、イライラして物に当たってしまったり、人様に迷惑をかけるような症状の出方をしているので、なにかしら改善を図っていかなければいけないとは思っている。それでも結局、やればやるだけ成果が出るので、仕事そのものは楽しい。仕事をもらえた時はやっぱり嬉しいし、お客さんが喜ぶ姿を想像すると、残業してでもやり遂げなきゃ、上司にやんや言われるのが鬱陶しいし、だったら残業つけずにやろう、と考えてしまう…」。
こうした状況は、「やりがい搾取」とも呼ばれる。今野氏は「経営者が金銭による報酬の代わりに労働者に『やりがい』を強く意識させることにより、その労働力を不当に安く利用する行為のことだ」と説明する。
■「日本人はもうちょっとサボりましょうよ」
リディラバ代表の安部敏樹氏は「自分で言うのもだが、うちの会社はめちゃくちゃやりがいがあるので、“やりがい搾取”はいくらでも起こりうると思っている。現状把握しようと思っても、本当に全てを記録してくれているかどうかは分からないし、やりたくてやっている人に“その仕事はやらない方が今いいよね”といった話をしていても、止めてくれないこともある。責任を持って管理しなければならないが、同時にすごく難易度が高いと感じている」と明かす。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「経済学者の速水融が70年代に“勤勉革命”という概念を提唱したが、やはり日本には人が足りない、合理化できない、機械にできない部分は人の手でなんとかするんだ、という考え方があると思う。グローバル化の中、欧米が新しいビジネスを作りましょう、産業構造を変えましょうとチャレンジする中、日本は人を減らしてコストを抑えれば戦えるんだと考えた。また、同じ残業時間でも昭和の時代と今の時代とでは中身が全く違うと思う。ミキさんをはじめ日本人に言いたいのは、もうちょっとサボりましょうよ、ということ。そんなに仕事をしなくていいよと宣言しない限り、この不毛なスパイラルはいつまでも続くと思う」と話した。
■それでも「負荷があるからスキルアップできる」?
一方、組織や上司の論理として「負荷があるからスキルアップできる」など、長時間労働の規制に懐疑的な声もある。
楽天株式会社会長兼社長の三木谷浩史氏が代表理事を務める「新経済連盟」が2017年に発表した働き方改革に関する意見書では、36協定で定めた上限は、当然ながら守られなければならない。一方で、一律的な上限の設定は日本の競争力を失わせかねない」と主張している。ネット上にも、「個人のスキルを上げるためには、負荷をかけないと」「仕事に慣れないうちは残業して当然」「簡単な仕事ばかりしていてはいつまでも成長しない」といった声がある。
佐々木氏は「長時間働けば成長するとか、競争力がつくという考え方は根本的に間違っている。何を言っているのか、ちゃんと頭使えよという話だ」と厳しく批判する。
「スキルアップや成長というのは自分でやることであって、お前が成長するために長時間働けと言うのはおかしい。僕はフリーランスで仕事をしていて、朝7時からメールの返事を始めて、10時間以上働くこともある。それでも自分がブラック労働だと思わないのは、自分自身が休みも含めてコントロールできているからだ。今のブラック労働というのは、そのセルフコントロール権が奪われているからだと思う。日本は会社と従業員の関係が対等ではなさすぎるし、会社に所属することが“身分”になってしまっている。会社と合わなかったら別の会社で経理をやるんだというように、ある程度雇用が自由化されれば、個人のコントロール権も取り戻せるはずだ」。
ミキさんのように職場でお悩みの方は「NPO法人POSSE:03-6699-9359/過労など労働に関する相談を、無料受け付け。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の使い方をサポート」「総合サポートユニオン:03-6804-7650/個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっている」といったところに相談することが可能だ。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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