(あとは武尊戦の正式決定を待つだけだ)
9連勝で、とうとうたどり着いた。Krushスーパー・フェザー級王者のレオナ・ペタスは7月21日の後楽園ホール大会で王座防衛に成功。念願のK-1同級王座挑戦、すなわち武尊との対戦にリーチをかけた。
レオナはKrushでもK-1でもトップ戦線の選手を総ナメ状態。今回の挑戦者・大岩龍矢のセコンドには武尊がついており、レオナは試合後にあらためて武尊戦をアピール。武尊もリングに戻り「やろうぜ!」と言い放つとマットにマイクを叩きつけた。お互いやる気充分。あとは正式決定を待つばかりという状況だ。
大岩戦は判定勝利。持ち味である強力なパンチは、期待されたほどには炸裂しなかった。試合翌日にインタビューしたところ、本人も内容には反省点があったようだ。
これまでのような爆発力が見られなかったのは、相手に攻めさせてカウンターを狙うスタイルで闘ったからだ。レオナは言う。
「次戦を見据えて試したいことがあったんです」
次戦とは、もちろん武尊戦だ。自分から攻めるのはもともと得意とするところ。しかし大岩も武尊もアグレッシブなファイターだけに「攻めてくる相手にどう対処してカウンターを取るか」を実戦で試しておきたかったのだ。すでに武尊との闘いは始まっている。
「まだ伸び続けてるし、もっと自分しかできないことがあるんじゃないかと思ってます。完全無欠の選手になりたいんですよ。そのために、だんだん削れてきてるなと思いますね」
削れてきている、とはレオナ独特の表現だ。彼にとっての格闘技とは、武器をつけ足していくものではなく自分の本質を削り出していくものなのだ。キャッチフレーズ“石の拳”になぞらえて「石も磨けばダイヤモンドですよ」と言う。
武尊は、負けた大岩の悔しそうな顔を見てレオナとの対戦を決意したそうだ。武尊にとって大岩は親友。「仇を討つ」という意識も強い。
それはレオナにとっても望むところだ。単に“受けて立つ”だけでなく「あらゆる面で最高潮の武尊選手と闘いたいですから」。武尊と向き合った反響も大きかった。「自分の知名度からすると、あれは話題性という意味で助けられた。僕を助けてくれたのかなという。そういうところもK-1チャンピオンだなと。闘う相手ですけど尊敬する選手でもあります」とレオナ。
目標はあくまでK-1のベルトを巻くこと。しかしやはり武尊は特別な相手だ。
「やっぱり“K-1の武尊”じゃないですか。K-1の顔。だからこれはK-1との闘いだと思ってます。その覚悟はあります。K-1ごと倒さないといけない」
武尊はK-1王者。レオナはKrush王者。Krushは“K-1への登竜門”を言われることもあるが、本来の位置づけに“上下”はない。
「武尊選手はK-1を背負ってる。僕はKrush背負ってる。これはKrushがK-1を倒しにいく試合です。KrushはK-1の下じゃない。まだやってないだけで、僕のほうが強い、一番はKrushだとと思ってますから」
大岩戦で試したことも踏まえ、武尊戦では自分の強さをピークにもっていきたいとレオナ。
「武尊選手とはアマチュアで1勝1敗。これがどっちが強いか決める闘いになる。小細工なしで打ち合って打ち勝ちたいですね。今まではテクニックで勝つこともありましたけど、次は打ち合い上等スタイルで。相手はK-1のチャンピオンだし、すべてを受け止めてくれる器があると思います。そんな相手にすべてを出し切って僕が勝ちたい。向こうもそれを望んでると思う。K-1史上最高の試合をして、僕が勝ちます」
K-1のベルトを巻くことは、格闘家としての活動を誰よりも応援してくれた母との約束でもある。その母は3月31日に亡くなった。レオナは今回、試合2日前に母のお墓参りをしたそうだ。そして、あらためて“約束”を心に刻んだ。
「母が亡くなったことを受け入れてはいるんですけど、心の底ではやっぱり寂しさもあるんです。だからこそ、ちゃんと約束を果たしたい。自分で背負うものもあったので、防衛したらホッとして涙が出ちゃいましたね」
大岩戦は、兄弟としての闘いでもあった。8月大会では、弟の加藤虎於奈がウェルター級王座決定トーナメントに臨む。優勝すれば兄弟王者の誕生。それは母と約束した以上の結果だ。
「今回、僕がベルトを守って、8月に弟が勝って、その後に僕が武尊選手を倒してK-1王者になる。次は弟の番です」
2人で3本のベルトをもってお墓参りに。「兄弟で夢をつなぐ闘い」は続く。
文/橋本宗洋