結論が先送りされる「安楽死」議論 臨床心理士も悩む「生きる」を前提にした支援への葛藤
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 難病のALSを患う女性が殺害されたとされる嘱託殺人容疑で、医師2人が逮捕された事件。去年11月30日に自宅を訪問して殺害したと見られているのが、大久保諭一容疑者、山本直樹容疑者だ。亡くなった林優里さんは、大久保容疑者にSNSで依頼していたと見られ、山本容疑者には約130万円を振り込んでいた。

▶【動画】嘱託殺人をきっかけに議論される「安楽死」

 医師による同様の事件は過去にも起きている。1991年、神奈川県の東海大付属病院で、末期がん患者に医師が塩化カリウムを投与し、有罪判決になっている。その裁判で、積極的安楽死が認められる4つの要件が示された。(1)耐え難い肉体的苦痛、(2)死期の切迫、(3)患者の意思表示、(4)肉体的苦痛の除去・緩和する他の方法がない、というものだ。

 明星大学准教授で臨床心理士の藤井靖氏は、これまでも末期がん患者らと仕事で関わる機会があり、今回の事件についても思うところがあるという。まず気になった点は、林さんがどこまでALSという病を受け入れていたかどうかだ。有名な精神科医キューブラー・ロスによる「死を受け入れる5つの段階」を例に挙げ、死を宣告された時に、人は否認→怒り→取引→抑うつ→受容という段階を踏むという。「参議院の舩後靖彦議員は、『死にたい』という時期を乗り越えてきたという旨のコメントを出しており、自分がALSというものを受け入れる受容まで達していると思う。果たして今回、林優里さんがどの段階だったのか」と着目した。

結論が先送りされる「安楽死」議論 臨床心理士も悩む「生きる」を前提にした支援への葛藤
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 「死にたい」という判断は、抑うつが強くなった時に病気の有無に関係なく人の心に起こりうる。「心理的な視野狭窄になっている状態で、それ以外のことを考えられない状態であれば、それに対する援助、サポート、寄り添いができて、そこから受容に向けて援助していくことができると考えられる」とした。ただし、その先がある。「これが全てのプロセスをたどっていて、受容した上でそれでも死にたいとなった時に、心理的なサポートとして何ができたのかは考えあぐねるところ」と語った。

 今回の事件をきっかけに「安楽死」についての議論も活発化している。藤井氏は、事件について「安楽死ではないと思う」と前置きした上で、「死期が迫っていると宣告されていて、それがある前提で生きていかないといけないという苦しみがある。特にALSは、人によっては最終的に目を開けることすらできず、社会とのやり取りが全くできず、それでも意識ははっきりしているという、想像を絶する状態で生きないといけない場合がある。そういった患者さんに対して、どういうことができるのか、あるいは事前にどういう準備ができるのかについて考えないといけない」と説明した。

 安楽死の法制化については、40年ほど前から国会でも話し合われるものの、前に進まないというのが現状だという藤井氏。「安楽死の話はタブーという感じが強い。複数のアンケート結果を見ると、安楽死について国民の7割程度が賛成なのに、なかなか向き合えていない。専門家としての心理的支援として考えると、『生きるのが大前提』で、そのために何かできることをしようという発想だが、患者さん本人がそれによってより苦しんでいるんじゃないかという葛藤もある。もちろん、安楽死が認められた方がいいかは議論の余地はあるが、向き合っていかないといけない。身体的困難のみならず、終わりの見えない心理的苦痛をどうするかについて本当にちゃんと考えて、『自分で決められる』手続きについて整備すべき」と、改めて検討されるべきものと語っていた。

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

医師から誘導?ALS患者“嘱託殺人”
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