8月6日、75回目の原爆の日を迎えた広島。新型コロナウイルス対策のため、席の数は去年の1割ほどに。それでも、平和記念式典には安倍総理のほか83カ国とEUの代表が参列した。
【映像】“使えない核兵器”なぜ開発&保有? 広島原爆の日にEXITと考える
きのうのTwitterトレンドには、「世界平和」「原爆」など原爆の日にちなんだワードが並んだ。中でも目立ったのが「#ひろしまタイムライン」だ。NHK広島放送局が企画したもので、“戦時中にもしSNSがあったら”と仮定し、実在の3人(新聞記者、主婦、男子中学生)の日記をベースに、数カ月前から毎日投稿。原爆投下の時刻には「ん?」「爆発したっ!何か」「ものすごい光、地響き、家が揺れて、電気の傘やガラスがふきとんで」など、被爆者が目にした光景を伝えた。
6日の『ABEMA Prime』では、核兵器廃絶国際キャンペーン「ICAN」国際運営委員でピースボート共同代表の川崎哲氏を交え、核根絶をめぐる“理想と現実”を考えた。
インターネット上で被爆体験を継承する「#ひろしまタイムライン」の取り組みに関して、川崎氏は「あの当時に何があったのかを知ってみたいという若い人がすごく増えている気がする。単純に資料館を訪ねるということだけでなく、(ネットで)当時のことを検索したり、当時の暮らしぶりを知れるソフトが開発されたり、すごく関心が高まっていると思う」と話す。
核廃絶に向けた動きの広まりについては、「この前、原爆資料館からインスタライブを行い、世界の人たちに資料館の中を見ていただくツアーをICANとしてやった。広島と長崎で1回ずつやったところ6000人以上の方が全世界から見てくれて、ものすごいコメントが来た」と紹介。新型コロナウイルスで現地を訪れる人が減った一方、ネット上での活動の広がりを感じているという。
世界の核兵器保有数は合計1万3400発(北朝鮮を含まず)。各国の保有数は、ロシアが6375発、アメリカが5800発、中国が320発、フランスが290発、イギリスが215発、パキスタンが160発、インドが150発、イスラエルが90発で、北朝鮮は30~40発保有しているとみられている(出典:ストックホルム国際平和研究。今年1月)。
未だにこれだけの核兵器があることに川崎氏は「何のためにこんなものをまだ持っているのかと。20世紀の冷戦時代にアメリカとソ連がため込んできた核兵器を未だに手放せていない。いつどんなタイミングで核兵器を使うなんてことが、この現代世界であり得るのか。使えないのにまだ1万3000発も持って、お金をかけて維持しているというのは本当におかしいことだ」と異議を唱える。
一方で、日本はアメリカの「核の傘」に守られ、お互いに持つことで核抑止力が働いているという考え方もある。6日の平和記念式典で、広島県の湯崎英彦知事は「絶対破壊の恐怖が敵攻撃を抑止するという核抑止論は、あくまでも人々が共同で信じている“考え”であって、すなわち“虚構”に過ぎない」と訴えた。
式典で広島市長と広島県知事に直接話を聞いたという川崎氏は、「それはとても大事なことだと思う。核の傘で守られていると言うが、本当なのか。核の抑止力が働いていると言うが、誰が証明できるのか。確かに日本はいま直接戦争に巻き込まれていないが、本当にアメリカの核兵器のおかげなのか。アメリカが核兵器をなくしたら、戦争が起こるのか。そんなことはないと思う。戦争を食い止めようとしているのはいろいろな人たちの努力で起きていることであって、核兵器に守られているという現実自体が眉唾の議論だと思う」と疑問を呈した。
また、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、原爆について思い入れがあるとし、「私の母が北九州市の八幡出身だが、8月9日の長崎に落ちた原爆は本来、小倉という隣町に落ちるはずだった。天気が悪かったから長崎市に行ったということで、小さい頃から散々『あんたはあの日天気が良かったら生まれていない』と言われて育ってきた。もうひとつ、僕は1987年から92年までアメリカに住んでいて、そこで世界史の授業があった。世界史の先生が極右のアメリカ人で、日本人は僕が唯一の生徒。『おいお前、俺たちが原爆を落としてやったから戦争は早く終わったんだよな?』と言われたが、私は『Maybe(多分そうだね)』と嫌味ったらしく言うしかなかった。YesともNoとも言えない。そういう思いがあった中、6日の米紙で“実は原爆はいらなかったのではないか”という報道が出て、“特に2発目の長崎はいらなかった”ということをアメリカ人が言い出している。特に若い世代に原爆不要論が増えているのは救いだと思う」と述べた。
アメリカで若い世代の意識が変わってきている点について、川崎氏は「原爆投下は正当だった、それによって戦争が終わって良かったというのが、アメリカの伝統的な教育。しかし、それに疑問を呈する人たちが増えてきて、アメリカの若者の7割が『核兵器は必要ない』と答えたとNHKの報道でもあった。私もピースボートでいろいろ世界を回って、いろいろな方々、被爆者の方々と一緒に原爆の話をするが、“核兵器は恐ろしいものだ”ということを何の抵抗もなく実感できるアメリカの若い方々が増えてきている」と説明した。
1970年、核が増えることを防ぐため核兵器不拡散条約(NPT)が発効された。締約国は191の国と地域で、日本は1976年に批准。「核兵器国」(米、露、英、仏、中)以外の国の核兵器の製造・取得を禁止することや、核軍縮、原子力の平和利用を目的としている。
一方、核兵器の縮小・不拡散ではなく“根絶”を目指しているのが、2017年に国連で採択された核兵器禁止条約だ。現在批准しているのは、オーストリア、南アフリカ、タイ、キューバなど43カ国(50カ国批准で発効)。しかし、アメリカ、イギリス、フランスなどの核保有国と日本は不参加となっている。不参加の理由について日本政府は、「通常兵器だけでは抑止が困難な場合もある(北朝鮮のように核使用をほのめかす相手)」「米国による核抑止力の正当性を損なう。国民の生命・財産を危険にさらす可能性」「他の非核兵器国からも支持されていない」と安全保障の観点をあげている。
核根絶が実現しない背景について川崎氏は、「よく見ていくと、核兵器を持つことが国の地位を高めると思って持つ国が多い。この間、インドやパキスタン、北朝鮮と、本当に使うことよりも地位のため、つまり核兵器を持つことがプラスの価値だとみられている時代だ」と指摘。核兵器禁止条約はその価値をひっくり返すものだといい、「例えば35年くらい前は皆が煙草を吸っていて、私が中学生の頃は先生が煙草を吸いながら授業していたが、クビにもならず『お前らは煙草吸うな』と言っていた。それが30、40年経てば時代はガラッと変わって、煙草は極力やめようという時代になっている。つまり、核兵器を巡る価値を“強い・すごい”ものから“悪いもの”に変えていく。それは日本のような国がリーダーシップを取らなければならない」との見方を示す。
ICANでは現在、核兵器禁止条約に加わる国を増やすための活動を行っているという。「(批准が)50カ国になるとこの条約は正式な効力を持つ。この条約が本当の国際法として発効されれば、持つ意味がこれまでよりも格段に強くなっていく。そういう規範を作るのがICANの今のやり方」と川崎氏。
被爆者の平均年齢は83歳を超え、被爆者団体も高齢化による解散が相次いでいる。そんな中、日本がリードできていないもどかしさについて、川崎氏は次のように訴えた。
「それはそうでもない。原爆資料館からインスタライブを行ったと言ったが、本当に創意工夫で、自分たちは直接知らないおじいちゃん・おばあちゃん世代の話だが、“何か引き継がなければならない”と動いている若い世代の人たちがたくさんいる。そういう活動を僕らも紹介していきたいし、情報はネットでも出ているので、皆さんも繋がって欲しいと思う」
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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