「息子のままで、女子になる」映画で伝えるトランスジェンダーの実情 夢を邪魔する“見えない第三者”
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「今、自分の体は女性であるといえますか」

 この質問にトランスジェンダーで建築家のサリーさんはこう答える。

「言えないと思います。理由は、生物学的にいうと男性だからです」

 サリー楓さんを追ったドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』。言葉としては浸透し始めている「トランスジェンダー」について、サリーさんの言葉やさまざまな挑戦への密着を通して、当事者の実情が描かれている。

【動画】当時、男性として慶應義塾大学に通っていたサリーさん…映画『息子のままで、女子になる』映像(30秒ごろ~)

 映画はアメリカのロサンゼルスで開催中のダイバーシティ・フィルムフェスティバルにて、日本の作品として初めて公式招待された。

「私は在学中に性別を変えていまして、これはちょうど3年前くらいの写真になります。このとき私は“畑島けんせい”という名前で当時は男性として、慶應義塾大学に通っていました。私はまだ戸籍を変えていなくて、戸籍を変えるには手術をする必要があるんです」

 就職を前に、男性である自分を終わらせ、女性として生きていくことを決意したサリーさん。それまでは、男性として接する周りの人々と、本当の自分との気持ちの差に葛藤する日々が続いていたという。

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「小学校1年生か幼稚園年長くらいのときに女の子の服を着て髪をくくったんですよ。そのときにすごく怒られたのを覚えているんですよね。そういう女々しいことしないとか、オカマっぽいからやめなさいとか。『お前はスポーツしてないからそういう風になったんだ』のようなことを言われて、空手に通ったりしたんですけど、空手は確か3日でやめたのかな。続かなかったですね」

 男性の姿で生まれた我が子を、息子として育ててきた父。「男らしく」育って欲しいという思いに応えられない本当の自分を伝えることに、怖さも感じていた。

 「今でも楓として生きていることは親不孝だと思っている?」という質問に、サリーさんは「今は思っていないですね。実際にこうなって(トランスジェンダーになって)学校に通ったり就職活動したり、身構えていたほど私の人生は悪い方に転ばなかった」と答える。

 実際にサリーさんの父は「誰にでも悩みはあるんでしょうけど、それで悩むくらいだったらその道に進むべきじゃないかなと思います。自分の人生ですから自分の決めたことは責任をもって人に迷惑をかけなければ別に。男性とか女性とかいうのは私の中には関係ないです。自分の息子っていうだけ」と思いを明かす。

 一生隠し続けようと思っていた気持ちを告げたことで少しずつ進む理解。女性として生きる人生が両親や周りの人々に受け入れられ始める一方で、サリーさんには乗り越えなければならない社会の壁があった。

 幼い頃から思い描いていた夢は建築家。トランスジェンダーへの理解不足が、その夢の実現の前に壁として立ちはだかった。

「自分は大丈夫だけど社長や取引先が嫌がるかもしれない」

 これは実際にサリーさんが就職活動の中で人事から言われた言葉だ。自分は寛容だけど世の中は寛容じゃないはず……想像の中にいる“見えない第三者”が夢を邪魔した。

 ニュース番組「ABEMAヒルズ」では、LGBTが働きやすい職場環境を整えている企業と、そうした企業で働きたい人のマッチングサービスを運営している「JobRainbow」を取材。支援に動き出したのは、ある1人のトランスジェンダーが直面した困難がきっかけだった。

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 同社の取締役COO・星真梨子さんに話を聞くと、当時は企業に対して自分の能力を伝える前に、自分の性に関する理解をしてもらわなければならないケースが多かったという。

「(支援を始めるきっかけになった)彼女は高校生までは男性として過ごして、大学から女性として大学生活を非常に謳歌されていた。その方が3年生になって、就職活動にあたったときに履歴書の男女の性別欄のどちらに丸をつけたらいいのかわからない、例えば説明会は女性用スーツで行くけど、面接には男性用スーツで行く……そういうことをしているうちに心のバランスが崩れてしまった。その中で『あなたみたいな人はうちにはいないので採用できません、帰ってください』と言われてしまうようなことがあって、その方は就職活動をあきらめてしまったばかりか、大学もやめてしまった」

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 今では名だたる企業がLGBTフレンドリー企業として「JobRainbow」のサービスを利用しているが、大切なことは、職場で働く1人1人の意識だ。前述の星さんは「職場のコミュニケーションの中で、例えば『彼氏いるの? 彼女いるの?』という質問に対して小さな嘘を積み重ねなきゃいけなかったり、その中で離職を早期にされる方が非常に多い」と語る。

 厚生労働省の調査では、性的マイノリティであることを職場でカミングアウトしている人の割合は1割程度。同僚に対する何気ない一言がその人を追い込んでしまうケースが、どの職場でも起こり得る。

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 星さんは「彼氏いるの? 彼女いるの?」という質問について「パートナーいるの?恋人いるの?」という言葉に言い換えるだけでも「LGBTの方は非常に安心することができる」と話す。

「名前をお呼びするときに、ちゃん付け・くん付けなど、性別を特定するような呼び方になってしまうと、“ちゃん”ということは自分は女性に見えたのかな、“くん”ってことは男性に見えたのかなと思ってしまう。相手がどういった心の性を持っているのかは、外から見えないこと。ご本人の同意が取れていないときにはさん付けで呼んだり、『なんて呼べばいい?』と確認してあげれば、小さな積み重ねからAlly(理解し支援する人)になることができます」

 実際に厚生労働省が今年5月に発表した「職場とLGBT 企業の取り組みについての事態調査」(※従業員50人以上の企業1万社を対象に実施)によると、「社内で性的マイノリティが働きやすい職場環境を作るべきだと思うか?」の質問に約7割が「必要」と回答。しかし、性的マイノリティに対する配慮や対応を意図した取り組みの実施状況を聞くと実際の対応は約1割だった。

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 LGBTに理解を示しつつも、何をすればいいのか、具体的な対策が分からずにいる企業。この現状にサリーさんはこう述べる。

「LGBTを優遇して採用しようという話ではない。同棲しているレズビアンカップルやゲイカップルに対して、同居している場合の給与面の保証だったり、転勤することに異性カップルと同じくらいの権限を与えてほしい。優遇ではなく、(LGBTじゃない人と)同じくらいの権限を与えることが大切」

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 最後に映画『息子のままで、女子になる』をどのような人に観てもらいたいか聞かれると、サリーさんは「トランスジェンダーという言葉をご存知の方も多いかもしれませんが、周りに当事者がいないと思っている方や、自分の子供がトランスジェンダーで悩んでいる親御さんにぜひ観ていただきたい」とコメント。

 『ロサンゼルス・ダイバーシティ・フィルムフェスティバル2020』に公式招待されたドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』は、8月30日までオンラインで上映中だ。

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ABEMA/「ABEMAヒルズ」より)

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