中国漁船の大群が尖閣諸島周辺にやってくる? 高まる東シナ海の緊張、日本側の対抗策は
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 中国政府が来週にも東シナ海での漁業を解禁することから、尖閣諸島の周辺海域における緊張がさらに高まるのではないかと懸念されている。

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 共同通信によれば、日本政府は先月、中国に対し外交ルートを通じて漁船が日本領海に侵入する事態を防ぐよう申し入れを行い、「中国漁船が大挙してくると日中関係は崩れる」と警告。これに対し中国側は尖閣諸島が「固有の領土だ」と反発、逆に日本漁船を立ち入らせないよう要求したのだという。

■公船の能力も向上、海上保安庁を凌駕する?

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 小谷哲男・明海大学教授は「禁漁期間が終わると漁船団が東シナ海にやってくるのはいわば毎年の恒例行事で、今年も来るのは間違いない。ただ、尖閣諸島周辺の海域に来るかどうかは漁民の意思で決まるわけではなく、中国当局が認めるかどうかにかかっている。その意味では、尖閣諸島周辺に来るとすれば、そこには中国当局の意図が裏にあると見て間違いないと思う」と話す。

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 そもそも尖閣諸島周辺での中国の動きはコロナ以降、むしろ活発になりつつある。4月には中国海軍の空母「遼寧」が沖縄本島・宮古島間を初めて往復。5月には中国海警の公船が領海で日本漁船に接近・追尾。「日本の漁船は違法操業。海保の警備も違法な干渉」と主張した。さらに今月2日には尖閣諸島周辺の接続水域の航行が111日連続(国有化以来最長)に達している。しかも、これら中国海警の能力は日増しに強化されているという。

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 小谷氏は「中国が尖閣諸島周辺に公船を送るようになったのは2008年からだ。当初は公船をじっと置いておくことができなかったのが、急速に能力を高め、船の大きさもかなりのものが出てくるようになった。ほぼ毎日のように尖閣諸島周辺にいることができるようになったのも、中国海警の組織が整い、乗組員の練度も上がってきたということだと思う」と説明、米ハドソン研究所研究員の村野将氏も「中国と日本の能力には非常に深刻なギャップが生じつつあるという印象を受けている。自衛隊にも言えることだが、海上保安庁も船乗りをどうやって増やすかという問題がある。船は造れても、人はすぐには増やせないので、量で張り合えば中国側に軍配が上がる状況が出てきてしまうのがここ5年くらいの傾向だ。3隻、4隻の公船が入ってくるのとはまた別に数百隻単位で漁船が入ってくるということになると、海上保安庁の対処能力が壊されてしまう可能性も懸念される」とした。

■もしも漁民が尖閣諸島に上陸したら…

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 菅官房長官は11日、「このような活動が連続していることを極めて深刻に考えており、中国に対しては毅然とした態度で冷静に対応したいと思っている」としているが、現実には厳しいシチュエーションも予想されるようだ。

 小谷氏は「漁船が領海に入ってきた場合、日本側に取り締まる権限が生まれるので対処する余地がある。しかし軍艦、政府公船に関しては国際法上“主権免除の原則”というものがあるので、日本側は主権を及ぼすことができず、“領海から出て行ってください”という要請をする以外、手出しはできない。これを中国側が聞き入れなければ、領海内に公船を位置づけるという状況が生まれてしまう。基本的にはお願いベースで対処するしかないのが実情という点では、漁船以上に公船をどうするかという問題の方が難しい。例えば漁民を尖閣諸島に上陸させるという可能性を考えておく必要性があると思うが、日本側もその可能性は十分承知しているので、海上保安官に逮捕する権限が与えられているし、沖縄県警にも上陸してきた漁民に対処するための部隊が設置された。実際、2012年には尖閣諸島に上陸した活動家を逮捕した経験もあるし、かなり準備はされているので、さほど心配はしていない」とコメント。

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 一方、村野氏は「平時とも有事とも取れないグレーの段階ということで“グレーゾーン”呼んでいるが、中国の漁船が日本の領海や付近の海域に大量に進出し、それを取り締まるという形で中国の公船が出てくるということは、中国側が“尖閣諸島周辺は自分たちの領土だ”と言っていることになる。そのようにして実効支配の形を徐々に作っていこうというのが彼らの戦略だ。例えば中国の漁民が尖閣に上陸し、それを中国側が支援する、あるいは取り締まるという場合、どうすればいいのか。そのように、本来法執行ができないはずの領域で法執行のようなことをしてしまうケースについて、ここ数年来、議論されている。法的にはある程度整理されているが、実際に現場でどういった対応を取ればいいのかというのは、かなり複雑なところがある。海上保安庁と海上自衛隊、さらに海上自衛隊と米軍がどう連携するのかという難しさもある」と指摘した。

■常設の“日米統合機動展開部隊”の提案も

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 現下の状況について、在日アメリカ軍のシュナイダー司令官は「アメリカは尖閣諸島の緊迫に伴い日本を支援するという約束を100%果たす」と述べている。また、アメリカのシンクタンクの報告書では、“日米統合機動展開部隊”の常設が提案されている。これが現実となれば、自衛隊にも陸海空統合の常設部隊ができることになる。また、有事の際に米軍が自動的に介入するシステムになるという。

 小谷氏は「中国は東シナ海で何らかの紛争が起こった時に、アメリカと同盟国の分断を狙ってくる。それをさせないために、日米が常に一緒に動ける部隊を南西諸島の周辺に置いておいた方がこの地域の安定を維持できるのではないかという考えだ。トランプ政権は尖閣諸島に関して非常に強い言葉で日本を支持すると言っている。これはオバマ政権よりも踏み込んだものなので、その点では日本にとってプラスだ。同時に、同盟国に対しては“もっと金を出せ、出さなければ守らない”という姿勢を示してもいる。その点が連携する上での障害になっていると思う」と説明。

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 村野氏は「シュナイダー司令官のコメントは非常にまっとうだという印象を受ける。小谷さんがおっしゃったように、やはりトランプ政権になってから同盟国に対する負担増の要求などがきた。日本周辺の安全保障環境が悪化しているということを踏まえれば、今まで以上の自助努力をするは当然のことだが、国民からすればアメリカに圧力をかけられているという印象もあると思う。シュナイダー司令官の発言は、それに対して安心させる意味もあったのではないか」とした。

■イギリスや東南アジア諸国との連携も

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 中長期的な見通しについて村野氏は「現状変更を仕掛ける中国に対して、日本は常に現状維持なので、先に仕掛けることは基本的にはできない。“サラミ戦術”と言われるように、中国はスライスするサラミを自分たちで選ぶことができる。そこで、少しユニークな対応策として“ホリゾンタル・エスカレーション”という議論がある。例えば東シナ海で中国が侵食的な行動に出た場合、別の正面で我が方から攻勢に出ることによって、中国が投入するリソースを分散させるという発想だ。東シナ海で中国の活動が活発化している時には、南シナ海でアメリカ、あるいはイギリスや東南アジア諸国と合同演習のようなものを実施することによって、中国の関心を分散させる、活動に負担をかけていくということだ。実際、そのような動きも出てきている。短期的にすぐに効果が出るものではないが、クリエイティブな発想をして、こちらから中国にサプライズを仕掛ける、あるいは国際的な正当性がある形で中国側に圧力をかける方法はないかという議論がある」と話す。

 来年の日米軍事演習には、イギリスの空母が参加することも報じられている。

 これについて村野氏は「直接的な利害関係はなかったとしても、西側諸国として自由と法に基づいた繁栄を維持するために、イギリスも何らかの役割を果たさなければならないという意識は強くなってきている。日米としても正統性があることを示すためには、様々なアクターを味方につけ、多国間で共通の意思を示すことが非常に重要になる。中国側としては色々な国を敵にまわす覚悟というのを強いられるわけで、行動をエスカレーションさせようという意思を削ぐことにもつながる」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

尖閣諸島に中国漁船が襲来も? "サラミ戦術"で気付いたら実効支配されるリスク...
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