21日、「最近では中高年層への感染の拡大が見られるということ、そして重症者も徐々に増加傾向を示している」との懸念を示した西村経済再生担当大臣。今や新型コロナウイルスの新規感染者の数以上に、重症者数が関心を集めている。
【映像】コロナ対応最前線の医師に聞く“重症患者”の症状や治療は?
しかし、ここに来て問題になっているのがその基準だ。東京都は人工呼吸器または人工肺「ECMO」を使っている患者を重症者の基準としている一方、国はその他にICU(集中治療室)で治療を受けている人も重症者として報告するよう、各自治体に通知していた。小池都知事は「専門家の皆様のやり取りの中にはICUの入院が必ずしも重症とは限らないというご意見があった」と説明。実際、東京都の19日時点の重症者32人を国の基準に当てはめると41人に増える。
なぜ、国と都で基準が違うのか。感染症対策分科会の尾身茂会長は「各都道府県での対策により現実的な方法を使いたいという気持ちはあり、それは尊重。ただ、国に対する提出というのはスタンダード(国の基準)の方が良いと思う」との見解を示した。
そもそも、重症患者はどのような症状を発症しているのか。体内で何が起きているのか。21日の『ABEMA Prime』は、新型コロナ医療の最前線にいるかわぐち心臓呼吸器病院 呼吸器内科長の大山慶介医師に聞いた。
■異なる定義 重症化因子が特定できていない背景も?
埼玉県の20日までの病床使用率は、病床数967床に対して入院者数312人(使用率32.3%)、重症病床102床に対して重症者数10人(使用率9.8%)となっている。
重症患者の治療だけでなく県内の感染者を症状などで振り分けるコーディネーションもしている大山氏は、埼玉県の状況について「重症ベッドは県内いろいろな病院で担当して、協力しながらやっている。大学病院以外でも重症ベッドを診られる病院はあるので、現時点では困っていない状況だ」と説明する。
新型コロナウイルスの症状は、軽症(発熱、息切れ、味覚障害など)、中等症(肺炎症状あり、酸素投与など)、重症(人工呼吸器管理・ECMO使用など)に分類される。
埼玉県における症状の判断について大山氏は、「中等症は基本的に酸素投与をされた方。重症は都と国の差があったという話もあるが、基本的には人工呼吸器管理を開始した方としている。埼玉県ではICUに入った方も重症という判断。詳しい定義については再度検討中だ」と説明。
その上で、都が国と異なる基準で重症者をカウントしていることについては、「それぞれどういった定義で、どういった数で推移しているのかがわかればいいと思う。日本全体で基準がどう定まるのかは何とも言えないが、やはり統一された基準で統計された方が治療はしやすいと思う」との見方を示した。
糖尿病患者、喫煙者、何らかの持病がある人、高齢者などは重症になりやすいとされているが、「絶対ということはないが、これらの方が重症になりやすい傾向はある。ここには挙がっていないが、肥満の方も重症化しやすいと思う」と大山氏。
この点に関して慶應大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「いま一番気にすべきことは、どういう人が重症化するのか、重症化した人たちが社会のキャパシティの中でどうなっているかということだと思う。その情報がうまく伝わっていない感覚があるが、『こういう人が重症で、こういった人が重症化しやすい』と説明するのが難しいのか、理由があって僕らが知ることができない状況なのか、なぜだと思うか」と疑問を投げかける。
大山氏は「大規模な研究で重症化しやすい因子がまだ特定できていないということが一番大きいと思う。先ほど挙げた要因は現場としても思うが、本当にそうかは細かい研究をして発表すべきで、決して感覚では言ってはいけないと思う。公の場で発表するにはまだ至っていないので、なかなか皆さんにまで情報が届かないのでは。誤った情報が一度広まってしまうと修正は難しい」とした。
■重症で体はどう変化 「ECMO」に課題も?
新型コロナウイルスは、サイトカインストームと血栓との関係も指摘されている。サイトカインストームは、肺炎などにより体がサイトカイン(伝令物質)を放出することで、白血球が全身で過剰に暴れて血管や臓器を傷つけ、血栓が増加して臓器機能の低下を起こし、多臓器不全により死に至ることもある。
大山氏は「ウイルス性肺炎は昔からある病気で、インフルエンザでもなることがある。コロナウイルスに関しては、サイトカインストームといってウイルスの感染と免疫の反応が身体中に起こってしまい、肺だけでなく腎臓や肝臓、心臓、脳に関してもダメージを与えることが多いのではないかと言われ、血の固まりやすさに影響を与えるという説もある。重症の中でも肺だけの炎症がみられる方が多いので、肺炎が一番目立っているのではないか」との見方を示す。
大山氏が6月以降に診てきた7、8人の重症患者のうち、多くは50代の男性で、発熱や味覚症状、息切れなどの症状から1週間ほどで重症化。その後、気管挿管による人工呼吸管理を行って10日程度で回復し、死者は出ていないという。
重症の判断について大山氏は、「味覚障害や息切れが初発だが、僕らのところには全身の酸素が自分だけでは取り込めない重症の状態で来る。症状も大事だが、バイタルサインといって酸素を取り込む力や血圧や呼吸回数、あとは血液検査とか胸のレントゲンなど色々なもので重症と判断する」と説明。
2ちゃんねる創設者のひろゆき(西村博之)氏は「初期の3、4月に比べて、ある程度こうやったら治るといった治し方・ノウハウは増えているのか」と、重症者への対応について尋ねる。
大山氏は「重症に限ると、ある程度全国で人工呼吸器の管理や薬の使い方というのは広まっていると思う。私はECMOnetという組織に入っていて、感染対策を十分にしながら、沖縄から札幌まで重症に対する講習会を行っている。そこでいろいろな方と意見交換しながら、コロナに対する重症の治療というのはある程度標準的なものがあると思っている」と答えた。
ECMOに関しては、ECMOはあっても医師が足りず重症患者の治療を実施できない病院があるという課題から、第二波に備えるため複数の病院の集中治療室をネットで繋ぎ、拠点病院がモニタリングや助言を行う遠隔システムを構築する遠隔の取り組みがある。
大山氏は「tele-ICUといって、集中治療室の患者さんから離れた場所で、ビデオカメラやカルテの情報見て助言する。扱う機械にもよるが、ECMOや呼吸器管理の経験に乏しい病院とリンクして、スタンダードな治療を提供するために遠隔地でZoomなどと同じようなシステムを使って情報を共有するということが、各都道府県で徐々に確立されてきているのではないか。埼玉県では、自治医大の埼玉医療センターの讃井先生という方を中心に、いくつかの病院とコネクトする“テレICU構想”をいま実際に進めているところ。来月か再来月には確立できるように進めている」と述べた。
■治療薬は手探りも…大山医師「対応はある程度確立してきている」
新型コロナウイルスの治療薬は重症に効くのか。厚労省は「レムデシビル」「デキサメタゾン」の2種類を治療薬として承認しているが、大山氏は「おそらく中・軽症の段階では効果があると思うが、その中でも重症化される方がいるのは事実だと思う」との見方を示す。
また、「重症化してからだと効果はあまりないのか」というひろゆき氏の懸念には、「情報共有のためにいろいろな病院に聞くが、重症化してからはいわゆるコロナの薬を使っている病院は少ないかもしれない」とした。
ECMOによって7割の人が回復し、8月20日現在で回復が136人、死亡が57人、実施中が14人となっている。
ECMOでも助からない事例があることについて大山氏は、「第一波の時にECMOを使った治療が日本全国で行われたが、それでも高齢な方で助からないケースはある。血をサラサラにする抗凝固の薬などの影響で出血しやすいということもあるが、高齢になると現病そのもので助からないというところがあり、そういうデータが最近多くなってきている。あとは倫理的な問題もあり明確には言えないが、高齢になってくるとECMOの基準から外れてしまうという考えもある」と説明する。
また、若新氏は「コロナの問題が出てきた当初は、根本的な治療法がないということでみんな恐怖を覚えた。今でも対症療法なのかもしれないが、回復に向かわせる体制は整いつつあると思っていいのか」と質問。
これに大山氏は「原疾患の治療法はまだまだ手探りで、薬が効かなくて重症化する方もいる。ただ、どういったことをすればこれ以上悪くならないのかという対応の方法はある程度確立してきているので、そういった点では安心してもらえたら。ウイルスそのものの治療薬についてはまだまだ手探りだと思う」と答えた。
大山氏は最後、最前線で働く医師として伝えたいこととして、「みんなこの社会の中で不安を抱えながら日常生活をおくっていると思うので、重症化しても助かっている方がしっかりいらっしゃるということはお伝えしたい。そのために我々医療従事者は頑張っているというのは、知っておいてもらえたらと思う」と述べた。
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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