「札束で頬を叩く」と批判も…“核のごみ”処理問題めぐる寿都町長の決断は間違っているのか?
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 原子力発電の使用済み核燃料から生まれ、海外で再処理されたあと青森県六ケ所村などで一時保管されている高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」。これを放射能レベルが下がるまで数万年にわたり地下数百メートルに埋めておく「最終処分場」の場所選びは、原子力行政の長年の課題となってきた。

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 今月13日、その「最終処分場」の候補地として適しているかどうかの「文献調査」に手を挙げることを検討しているのが、北海道西部の日本海に面した小さな港町・寿都(すっつ)町だ。

 「核のごみの最終処分を学んだときに、諸外国から比べたらいかに日本が遅れているか。ここを何とか一石を投じないとならないと」。そう説明する片岡春雄町長だが、もう一つ大きな理由がある。

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 「コロナでこの町も相当痛めつけられて、これからの財政ってどうなっていくんだろうと。交付金というのをうまく活用できればありがたい」。人口2903人、その4割が65歳以上の高齢者で、主な産業は漁業と売電(風力発電)。2019年度予算は一般会計約53億円に対し、町税などの自主財源は約2億4000万円という財政の問題だ。仮に調査を受けることが決定すれば、国からは最大20億円の交付金を受けることができるのだ。

 原子力発電環境整備機構(NUMO)の資料によれば、その経済効果(東京・沖縄を除く全国平均)は直接効果が累計416億円、年間30億円、生産誘発効果が累計1060億円、年間76億円となっている。さらに地表のボーリング調査を伴う「概要調査」に進めば、4年の期間内に70億円が交付されることになる。その先には、約14年をかけて地下調査施設で岩盤や地下水調査などを行う「精密調査」(交付金の額は未定)が行われることになる。

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 ところが周辺自治体、さらには北海道の鈴木知事が「札束で頬を叩くようなものだ」と表現するなど、反対意見、あるいは再考を求める声が相次いだほか、漁業組合も一斉に反発。26日に開かれた議員や地元の産業団体との意見交換会を終え、片岡町長は「手ごたえ的にはけっこう厳しいものがある」として、9月中の応募判断を断念。今後、住民や周辺自治体などに時間をかけて説明していく方針だ。

■“札束で頬を叩く”のは悪なのか?

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 原子力発電所が立地する福井県敦賀市の職員の経験を持つ井上武史・東洋大学教授は「町の将来を大きく左右する大規模なプロジェクトである上に、周辺住民にとっても不安や懸念をもたらすもの。9月中の申請を見送り、時間をかけて慎重に議論していくという判断は適切だったと思う」と話す。

 敦賀市の場合も、1974年~2018年度までに約601億円の交付金を受けており、温泉施設「リラ・ポート」(総事業費約36億円)などの整備に充ててきた。

 「北海道は全国的に見ても人口減少が急速に進んでいて、とりわけ寿都町はそれが激しい。財政がいずれ持たなくなるという懸念は他の地域よりも強いはずで、20億円という交付金が魅力的なものに映るのは当然だと思う。結果的には“札束で頬を叩く”という状況になっているかもしれないが、基本的には住民サービスの向上に繋がるものであれば使うことができるし、このことだけを大きく捉える必要はないと思う。敦賀市も図書館、公民館、体育館の維持管理、建設等に使ってきたし、原子力発電所のある自治体は、大規模に公共施設を建てるということをやってきた。その維持管理費や更新などのことも考慮し、きちんと使えば問題はないと思う」(井上氏)。

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 国内の使用済み燃料の貯蔵は、去年1月時点で貯蔵容量約2万4000トンの75%にあたる燃料は約1万8000トンに達している。7月には青森県六ヶ所村にある日本原燃の使用済み核燃料の再処理工場が、原子力規制委員会の新審査基準に事実上合格している。この再処理工場は全国の原子力発電所から運び込まれた使用済み燃料からプルトニウムなどを取り出して加工、原発に戻して発電に使われるMOX燃料にする(核燃料サイクル)ための施設だ。日本原燃は先週、完成時期を2022年度と発表しており、予定通りに稼働が開始すれば、核のごみは確実に増えることになる。

 「再処理工場の稼働が本当に実現するのかどうか、まだ疑わしい部分も多い。しかし様々な事情から、再処理路線(核燃料サイクル)は維持されているので、やはり最終処分場は建設しなければならないことになると思う。とはいえ、全国から出た核のごみを一つの自治体に集めるというのは大きな負担だ。その意味では、国がもっと前面に出てこなければならないという時期が来るのではないか」(井上氏)。

■「決断してくれる北海道知事が現れるかどうかだ」

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 元経産官僚の宇佐美典也氏は「非常に難しい問題で、私の元上司たちも、“今さら引き返す方法はない、核燃料サイクルは苦しくてもやるしかない”という立場と、“こんな難しいことできるわけがない、やめた方がいいという”という立場に分かれていた」と話す。

 「核燃料サイクルの中核は青森県だが、六ヶ所村の再処理施設だけでなく、大間原発も建設中だ。もちろん反対している人もいるが、核燃料サイクルと連動した原子力発電をセットにして青森の衰退を止めるというのが基本的に政治的なコンセンサス、地元の決意ということだ。実際、ここ数年間は設備投資によって東北の中でも青森の衰退が一番小さい。その一方で、中間保存はするが最終処分は絶対にしないという姿勢だ。六ヶ所村の再処理工場が稼働するということは、最終処分場を決めるプロセスも始まっていなければならないし、これを言うと怒られてしまうが、再処理工場が稼働しないとなれば、青森に埋めるしかない。しかし、青森県は絶対に了承しない。つまりどう進めていいか分からない、ものすごく難しいプロジェクトになってしまっているということだ」。

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 その上で「政治家としては、賛成するメリットが何もない。例えば民主党政権は脱原発を言い出したが、プルトニウムをどうするかについての回答が示せなかったために、アメリカに“反米と見なす”と言われ、脱原発を事実上諦めた。しかし、そういう事情を知っている人たちでさえ、野党になると“原発反対”としか言わない。結局、短期的には反対しておけば選挙に勝つからいいじゃん、真面目に検討すれば検討するほど政治的にいいことがないよ、ということで先送りされていく構造がある。しかし梶山経産大臣は原子炉を開発する会社で働いていたプロ中のプロだし、お父さんの梶山静六元官房長官も東海村に原子力施設を誘致した人。やはり大臣として梶山さんが来た段階で、プロジェクトとしてこれをやるんだという決意で動き始めている。後は決断してくれる北海道知事が現れるかどうかだと思う」との見方を示した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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