戦前の予想を超える大激闘だった。9月4日の『RISE142』後楽園ホール大会、セミファイナルで組まれたのは森本“狂犬”義久vs前口太尊。アグレッシブな“激闘型”同士の対戦で、ファンが期待したのはもちろん打ち合いだ。
お互いプロとして求められているものが分かるだけに、試合は序盤から激しいものに。その中で主導権を握ったのは前口だった。アッパー、フックを連打して森本を下がらせ、続けざまにバックブロー。これが完璧にヒットして森本はダウンする。
このアッパーとフックのコンビネーションは、前口のセコンドについた那須川天心の指示によるものだという。前口は昨年、那須川と同じTEAM TEPPENに移籍。5連敗を喫したこともあったが、新天地で巻き返しを狙っている。
バックブローで「終わったと思った」と前口。それだけの手応えがある一撃だったが、森本は「ゾンビのように立ち上がってきて」。次のダウンで今度こそ終わったと思ったが、それでも森本は立ってきた。ここで前口は覚悟を決めたようだ。2ラウンドにもダウンを奪ったが、その時は「立ってくると思った」。
実際に森本は立ち上がり、猛反撃を見せる。逆に前口は「攻め疲れのガス欠」に。3ラウンドは前口がコーナーで連打を浴びる場面が目立った。
ただ幸いだったのは、前口が背負ったのが自陣コーナーだったこと。攻め込まれながらも要所で反撃しており、セコンドの声も届いていたのではないか。試合終了まで耐えた前口は、復活の判定勝利をものにしている。
試合後のコメントによれば、2ラウンドの途中から前口は記憶がないという。バックステージでは「吐きました。1リットルくらい。量にドン引きしましたね」というほど。「一言で言うと苦しかった」というのが試合の一番の感想だそうだ。
それでも「苦しい試合になることは想定済み」。実は延長ラウンドで勝つつもりだったとも語った前口。
「今回ばかりはマジで勝ちたかった。負けたら引退するつもりでしたね。人生かけてました」
それだけの執念を見せての勝利には大きな価値がある。那須川も「よくやった!」と声をかけ、試合後も一緒に記念撮影。そのポーズの力の入りっぷりからも、那須川の興奮ぶりが伝わってきた。
「強いヤツとどんどんやらせてください。34歳なんで、ラストチャンスください」
リング上でそんなアピールも。記憶が飛び、嘔吐するほどの激闘を制した男には、もちろん次なるチャンスがめぐってくるはずだ。
文/橋本宗洋
写真/RISE