各国の大手金融機関が巨額のマネーロンダリングに利用されていた疑いが、流出した米国財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)の内部報告書、通称“フィンセン文書”によって浮上している。
文書は米ニュースサイト「BuzzFeed」が入手、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に共有され、1999~2017年の約2100件、総額2兆ドル(約208兆円)の「疑わしい取引」が判明。週明けのニューヨーク市場では、名前の挙がった金融期間の株価は急落した。
ICIJとは、1997年に米国で非営利の報道機関として誕生、「パナマ文書」(2016年)や「パラダイス文書」(2017年)など富裕層の資金洗浄や資金隠しを明らかにしたことでも知られている。今回、フィンセン文書の分析には88カ国の記者400人以上が参加、日本からは共同通信社と朝日新聞社が参加している。
22日の『ABEMA Prime』に出演した共同通信社の豊田祐基子・特別報道室次長は「フィンセン(FinCEN)は金融犯罪を取り締まるため、米国財務省の傘下に設置された情報機関だ。アメリカで営業している大手金融機関はドル決済による海外送金の中継地点になっていることから、自分たちがマネーロンダリングなどに使われないよう、監視をしている。そういう中で不審な口座の動きや、多額の疑わしい送金が行われた場合、報告書を作成して米財務省に提出することを義務付けられている。いわゆるフィンセン文書を構成しているのは、そうした報告書だ」と説明する。
豊田氏自身は約1年前から作業に参加したといい、「ICIJに所属している世界のジャーナリストたちは、私が参加する数カ月前からこの企画に着手していて、記事が全世界に配信されるまでに約16カ月を要して膨大な文書を分析した。今回、BuzzFeedは情報源について明かしていないが、文書の一部はアメリカ議会がロシア疑惑を調べる中でフィンセンから取り寄せた記録だと説明している。米財務省の関連でいうと最大のリークと言って差し支えないと思う。また、一口に“2100件”と言っても、それぞれの文書はパズルのピースのようなもので、それらを繋ぎ合わせて一つの絵にするという作業には大変な労力が伴う。数字をデータ化、登場する人物を整理し、関係者に話を聞いていく中で、ようやく不正な資金の流れではないのか、マネーロンダリングではないのか、ということが見えてくる。これからもさらなる解析が必要だ」とした。
すでにICIJによって指摘されている“疑わしい取引”の中には、日本のメガバンク、ゆうちょ銀行、地銀などの9金融機関の57取引(送金が約3592万ドル(約37億3500万円)、着金が約107万ドル(約1億1100万円)も含まれている。
「日本のメガバンクもアメリカに拠点を持ってはいるが、ドルの取引量でいえばスタンダードチャータード、JPモルガン・チェース、ドイツ銀行などの大銀行に比べると、やはり存在感が違う。それでも日本の銀行がそういった資金の流れに無縁かといえば、断言はできない。ドルを使う以上、受ける時と送る時で大きく差額がでてしまうので、直ちに犯罪に使われているということにはならないと思うが、ゆうちょ銀からの送金がものすごく多いというのは面白い。やはり別の調べ方をしなくてはいけないのかもしれない」(豊田氏)。
さらに、一時期話題になった東京2020招致委員会がオリンピック招致のために支払ったコンサルタント料の一部が、当時IOC委員だったセネガル人のラミン・ディアク氏と息子のパパサマッタ・ディアク氏の口座に流れていたことも分かってきた。
豊田氏は「五輪の問題に関しても、文書だけではなく、ディアク親子を調べているフランスのジャーナリストや当局のあるアメリカのジャーナリストたちと情報交換し、数字を詰めていくという作業だった。資金の流れに関して新しく分かったのは、招致委員会がコンサルティング会社に払った計2億円以上の口座の動きだ。招致委員会がお金を払った直後から動きが活発化し、計3700万円がパパマッサタ氏に渡っている。ただ、これだけが全てなのかと言われると、断言はできない。ディアク親子が絡んだスポーツビジネス汚職は非常に大規模に及んでいるので、まだまだ解明すべき点は多いと考えている」とした。
また、今後について豊田氏は「大銀行がコンプライアンスよりも利益を優先させ、不正取引が疑われるものに手を突っ込んでいた状況が明らかになってきた。それを察知できなかった当局の問題、あるいは察知しても外交的な圧力で捜査ができなかったという問題も見えてきた。我々が文書を解析することでできることには限界があるし、捜査機関が動くかどうかというところだが、経緯を詳らかにすることで銀行に対しコンプライアンス強化を求めていくことになると思う。今後もタックスヘイブンを使って余剰のお金がどのように流れていったのか、といったことを各国の金融機関について詰めていき、報道していくと思う」とした。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側