厚生長官の訪問や1979年以来最高位となる国務省高官による訪問など、アメリカの台湾“急接近”が、中国を刺激している。
危機感を高める中国は今月6日以降、断続的に戦闘機「スホイ30」「殲10」が台湾の防空識別圏に侵入するなど、圧力を強化。さらに、「もし、きょう開戦したら」という物騒なテロップ入りのプロモーションビデオをネットに公開している。
講談社特別編集委員でジャーナリストの近藤大介氏は「アメリカは中国の反応を試しつつ、一歩一歩やっていく“サラミ戦術”を取っている」と指摘、中国の反応について「コロナが収束に向かい、行楽シーズンに入る中、台湾といつ戦争が起きるか分からないぞ、というのを国民、特に若者に見せつけようということだと思う。もう一つは、来月に開かれる重要会議・五中全会だ。習近平主席が長期政権を続けられるか、それとも2年後に下りなければならないかが、ここでほぼ決まると言っていい。改めては香港だけでなく、毛沢東が果たせなかった台湾統一も成し遂げるんだ、人民解放軍と一緒にやっていくんだという姿勢を見せようという意志の現れだと思う」と話す。
「今の中国の社会システムは、“社会主義市場経済”だ。社会主義を信奉していたのは毛沢東で、市場経済は鄧小平だったが、習近平さんは毛沢東型。あくまでも政治=社会主義が優先で、その後に経済=市場経済が付いてくるというイメージだ。それで“戦狼外交”を行うので、敵も増えてしまう。経済的には、ものすごくマイナスだ。それでも共産党政権を守り抜くことを重視している」。
そんな中、菅内閣で防衛大臣に抜擢されたのが、安倍前総理の実弟・岸信夫衆院議員だ。元産経新聞政治部長で政治ジャーナリストの石橋文登氏は「芯が強く、人柄は穏やか。敵がいない。防衛のことも熟知しており、台湾に関しては日本で一番太いパイプを持っている。安倍前総理とは仲が良いが、“身内びいき批判”を気にして入閣させられなかった。順調にステップアップすれば、将来の総理候補」と話す。
石橋氏が指摘する通り、蒋介石元総統と緊密な関係にあった祖父・岸信介元総理からの“親台路線”を引き継ぐ岸防衛相は「日華議員懇談会幹事長」「日台経済文化交流を促進する議員の会会長」などを務めており、台湾と対立の様相を深める中国にとっては警戒すべき人物だ。実際、大臣就任直前の9日には台湾民主化の父・李登輝元総統の弔問にも訪れている。
近藤氏は「中国としては“ポスト安倍”に誰がなろうと、二階幹事長さえ残ってくれればいいや、という雰囲気だった河野前防衛相に関しては、お父さんの河野洋平さんは生粋の親中派だが、本人は中国と距離を置いていた。それでも華春瑩報道官と一緒に写真を撮ってTwitterにアップをするなど、“話はできる”という印象を持っていたと思う。ところが今回は最も恐れていた人物が後任になってしまった。これは“剛速球投手”がやってきた、大変なことになる、という感じで驚いている」と話す。
一方、台湾側の反応については「蔡英文総統は香港の民主化運動を追い風にして、今年1月の総統選挙で817万票という過去最高得票で再任を果たした。最近ではトランプ政権から重要な高官が2人も来るなどのラブコールを受けている。さらに最も信頼を置く日本の政治家が防衛大臣になった。蔡英文さんは総統になる前の2015年に来日しているが、これをセッティングしたのも岸さんだ。自分の故郷の山口を案内し、安倍総理とのランチまでセッティングした。台湾にとっては、これ以上願ってもない国際状況だと思う。アメリカに対しては、“日本は本気だ”というメッセージになったと思う」との見方を示した。
また、菅総理は25日、習近平主席と電話会談する予定だ。元海上自衛隊海将の伊藤俊幸・金沢工業大学虎ノ門大学院教授は「岸大臣の起用は親中派の二階氏起用に対するバランス。中国に対しては“なめるな”、台湾に対しては“気にしている”という政治的メッセージだ」と読み解く。
近藤氏は「電話会談をするということ自体が驚きだ。これまでの習主席は“自分は国家主席である。天皇陛下と対等なんだ”というのが彼の流儀で、日本に対しては李克強首相に全てやらせていた。しかし菅総理就任時には李克強首相と共に祝電を届けているし、電話会談するという。これは相当アメリカ、日本、台湾の連携に警戒感を強めているということだと思う」との見方を示す。
その上で、「21世紀の最初の50年は、アメリカと中国の“新冷戦”だ。どちらがアジアで覇権をとるか、という戦いになると思う。そこでポイントになるのが台湾だ。日本には“短期的な選択”と“長期的な選択”がある。短期的なところでは11月のアメリカ大統領選挙と、その前に開かれる五中全会だ。トランプ大統領も習近平主席も、そのことで頭がいっぱいだ。台湾問題がエスカレートしている状況もそのためだが、日本は安倍さんから菅さんに政権が変わり、支持率も非常に高く、今のところは安定している。日本はしっかり状況を見据えながら、巻き込まれないよう判断していかなければいけない」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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