WHOのテドロス事務局長が「中・低所得国にワクチンが行き渡らなければ、新型コロナは死者を出し続ける。世界経済の再生も遅れる」と危機感を募らせている、新型コロナウイルスのワクチンの供給。
世界的な流行を食い止めるため、WHOはワクチン共同購入の国際的な枠組み「COVAXファシリティー」への参加を各国に呼び掛けていた。日本政府は15日、COVAXファシリティーに正式に参加するため、補正予算の予備費を活用し172億円を拠出することを閣議で決定した。
COVAXでは、比較的裕福な国が資金を出し合いワクチン購入の権利を得る一方で、途上国には拠出金を使い安価でワクチンが供給されるようになる。EUも約500億円の拠出を表明するなど、WHOは中・高所得の国と途上国合わせて156カ国が参加すると発表している。
しかし、これにワクチンレースをリードする大国3カ国が参加しないという。ワクチンを自国に囲い込む“ワクチン・ナショナリズム”が指摘されていたアメリカが不参加。さらに、ワクチンの工場を海外メディアに公開するなど、開発状況の発信に積極的な中国も参加しない。
「中国の本音は、自国で作ったワクチンをCOVAXのような国際組織ではなく、自分の手で各国に配ることで感謝をされて仲間を増やしたい。いわば恩を売ることで、外交的な成果をあげる“テコ”にもしていきたい。つまり“ワクチン外交”を展開するのが狙い」(テレビ朝日・中国総局長の千々岩森生氏)
中国はすでにカザフスタン・キルギスとの会談で、ワクチンでの協力関係についての議論を開始。ブルームバーグ通信によると、ワクチンの優先的な提供や融資など、中国がワクチン外交を展開する国は100カ国近くに上る。
中国同様、COVAXには参加せずワクチン外交の動きを見せているのがロシアだ。ロシアは今月から最終段階の臨床試験を開始するなど、世界のワクチン開発競争で先行していることをアピールしている。
ロシアが世界に先駆けて認可したと豪語するワクチンが「スプートニクV」。“最速”にもかかわらずCOVAXに参加しないのは、「国としての勢力の拡大」という狙いがあるとみられる。すでにインドやフィリピンとワクチンを輸出する契約を結んでいるということだ。
途上国にもワクチンを行き渡らせたいCOVAXと、独自で開発・供給を目指す大国。途上国の保健医療の向上に取り組む国際製薬団体連合会のクエニ事務局長は、足並みがそろわない現状に警鐘を鳴らす。
「理想はすべての国が(COVAXに)参加すること。富裕国と途上国の団結が必須だ。現状は懸念すべき状況。過去、新型インフルエンザでも富裕国がワクチンを独占したことがあった。途上国は当初、何も得られなかった。富裕国と途上国が良いバランスで参加しないと、COVAXはうまくいかない」
世界のワクチン開発競争について、遺伝子解析ベンチャービジネスを展開するジーンクエスト代表取締役の高橋祥子氏は「ウイルスによる感染症というのは、国レベルの話ではなく地球規模の問題となっているので、このような国際的な協力は必須になってくると思う」とコメント。
また、独自でワクチン開発を進めるメリット・デメリットについて、「やはり自由な開発のスピードと、あとの交渉権を得られるということがその国にとってメリットになる。ただ、一緒に開発した方が効率はいいし、資金面や感染のスピードも考えると、この3カ国にも参加してもらった方がいいと思う」とした上で、「症状が出ている人を救うための治療薬とは違い、ワクチンは健常者に対して予防的に打つものなので、副作用により慎重になる必要がある。ロシアでは先駆けて導入されているが、その安全性の面は慎重になる必要がある」と指摘する。
その上で、ワクチンが開発され世界に供給された場合については、「新型コロナウイルスの特徴として、若年層や子どもは無症状や軽症であることが多い。なので、ワクチンの副作用のことも考えると、全員に打つということにはならず、ハイリスクの方だけに打つ施策が取られるかもしれない」との見方を示した。
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