原告の高校生「ゲームは悪じゃないよ」香川県条例めぐり違憲訴訟…子どもたちのコミュニケーションスキルにも役立つ?
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 「18歳未満の子どものゲーム利用は平日60分まで、休日は90分まで」。子どもたちを“ネット・ゲーム依存症”から守ることを目的に、今年4月、全国で初めて施行された香川県の規制条例。あれから半年、香川県在住の高校3年生とその母親が県を相手取り、訴訟を提起した。

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 原告代理人で弁護士の作花知志氏は「条例には科学的根拠がなく、県民の基本的人権を必要以上に制限している。憲法13条が保障する幸福追求権やプライバシー権、自己決定権などを侵害している。制定のプロセスも民主的とは言えない」と指摘している。

 これに対し、香川県健康福祉部子ども政策課は「ルール作りや見直しの目安を定め、依存症に繋がるような過度の使用とならないよう求めるものと理解しており、憲法の理念や法令上の規定に反したものではないと考えている」とコメント。「これまで7回にわたり検討委員会で議論を重ね、依存症の専門家や学校関係者などから様々ご意見を聴取し、十分に議論がなされているものと伺っている」としている。

■原告の高校生「ゲームは悪じゃないよというのを知って欲しい」

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 今回の訴訟にあっては、クラウドファンディングで1840人が資金援助した。「手紙をくれた方の中には有名な大学教授もいる。この条例は不適切なものだという問題意識を皆が持っていると感じた」。

 小学生時代に不登校の時期があったという原告の渉さんにとって、ゲームはクラスメイトとコミュニケーションを取る手段であり、知らない人と知り合える有用なものだったという。

 「香川県のホームページで公開されている学習状況調査のデータを見ると、議会や香川県の教育委員会がゲームの悪い面だけを見て、良い面を見てくれていないことがわかる。実際には顔の見えない人、初めて会った人とゲームをすることは、コミュニケーションスキルのアップにもつながるし、ゲームのうまい使い方があると思う。ゲームは悪じゃないよというのを知って欲しい。今はプレイ時間や課金を制限するペアレンタルコントロールなどの機能がある。それらを利用すれば、線引きもできるのではないか」。

 今は条例を遵守するため、夜10時以降ゲームができないと話す渉さん。「僕の解釈では、勉強であったとしてもスマホは使えない」。同様に、県内でのサービスを停止している会社もあるという。そんな渉さんが問題視するのが、条例の制定過程だ。「対象となる児童・生徒を検討委員会に入れず、大人たちの議論だけで進んでいった」。ゲームにも良い面があるという自分たちの意見が反映されなかったと感じているのだ。

■将来の働き方にもつながるスキルが身につく?

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 かつての渉さんのような不登校の児童・生徒も多く通っているというゲームのオンライン教室「ゲムトレ」。立ち上げた小幡和輝代表も、ゲームが心の支えになっていたと話し、「コミュニケーションツールとして使うべきだし、それは野球やサッカーなどと何も変わらないものではないか」と指摘する。

 学校での集団生活に馴染めず、通学ができていないりょうくん(小5)は、今月から「ゲムトレ」に通い始めた。「ゲームは心を落ち着かせてくれる存在」だと話し、「普段は関わることはない高校生など、年上の人の上手さがわかるし、すごく楽しい」。母親も「『フォートナイト』で新しい友達と繋がって、すごく楽しそうだ。ゲームがなかったらこの子はどうなっていたのかなあと。誰ともコミュニケーションを取らず、YouTubeを見るだけで終わっていたのではないかなという怖さがある」と話す。

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 テレビ朝日の平石アナウンサーも、自身の子育て経験から「もちろんゲームのやりすぎは問題だと思うが、むしろ関わった方がいいのではないか」と話す。

 「今のゲームは実在の人間とコミュニケーションしながらプレイするし、チャット機能を通して関係が密になることもある。コミュニケーション能力を形成できる場という意味で、ゲームは侮れない空間になりつつあるのと感じている。同じ目標に向かって協力し合い、それぞれのスキルやスペックに応じて“あなたがリーダーで、私は後ろをついていく”というような役割分担をし、ミッションを達成すると“楽しかったね”と絆が深まる。お互いにリスペクトも生まれるし、もしかすると将来の働き方をイメージする機会にもなるかもしれないし、プロジェクト型の仕事のやり方に慣れた子どもたちが育ってきているといえるかもしれない。むしろ現実世界の方が、目の前にいる人がスマホで何をやっているのかわからないといったことも多いと思う」。

■ゲームが学業に影響、暴力的に…科学的根拠はあるのか

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 香川県の条例の前文によれば、「ネット・ゲーム依存症」とは、のめり込んだ結果、日常生活や社会生活に支障が生じている状態を指す。ネットやゲーム依存に悩む人とその家族の回復支援に携わっている臨床心理士の森山沙耶氏は、次のように話す。

 「保護者からの相談で多いのは、生活リズムが崩れてしまったというもの。ひどいケースでは昼夜が逆転し、学校にいけなくなってしまったというものもある。ただ、ゲームを続けることによって学業や仕事に悪影響が出るというよりは、親にやめなさいと言われてもやめられない、自分でもコントロールできない、ということだと思う。目の前に好きな食べ物や欲しいものがあれば、大人でも買ってしまう。それを本人の意志が弱いとか、怠けていると言ってしまうと、子どもの側も“大人は何もわかってくれない”となってしまう。暴力的な言動が生じてしまったという保護者からの相談もあるが、私の知る限りゲームをプレイしたことによって暴力的になるという科学的な根拠は無い。やはり不安になった親が過度に注意したり、ゲームを取り上げてしまったりした結果、親子関係が悪くなってしまう中で生じてくるものだと思う」。

 その上で森山氏は「現段階では、これ以上やったら依存症になるという科学的根拠はない。例えば一日に4時間以上やっていたとしても、問題なく学校に行き宿題もしていて、家族関係も特に問題がなければ、依存とは言えない。ただ、子どもの場合は衝動をコントロールすることが難しく、勉強が手につかなかったり、基本的な生活習慣がおろそかになったりすることで、心身の発達に影響が出てくる。そこの部分はペアレンタルコントロールなど、子どもに頼らない方法を使いながら、自分でやめていけるようなスキルを身に付けていくことが必要だ」と指摘した。

■「意見を聞き、双方が納得できるルール作りを」

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 今後について渉さんは「憲法学者や医師の方々にも意見書を書いてもらう予定でいるが、やはり僕たちの主張を県が全面的に受け入れてくれるかどうか。最終的な目標としては、この条例自体がなくなること、そして県議会に制定過程や内容を改めて審議してもらうこと」と話す。

 森山氏は「当事者たちには、なんとなく上から押し付けられている感覚があると思う。それによって反発や不信感を招いてしまい、結果として“こんな条例なんて守らない”という雰囲気が出てきてしまうことは残念。同じことが家庭の中で起こっている場合も多い。ゲームのことがわからず、不安のあまり取り上げてしまったり、厳しいルールを作ってしまったりすることで子どもの反発を招き、家族関係がこじれてしまうなど問題が複雑化するケースだ。やはり、いかに子どもの話を汲み取りながら信頼関係を築き、実効性があり、双方が納得できるルールを作っていくのが大切だ。また、条例とまた違う形で、本質を見極めた社会的な対策も必要だと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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